バブの一生

 ワシャは風呂に本棚を作ろうと画策しているが、今のところ家族の反対で頓挫している。仕方がないので今日も今日とてプラスチックケースにタオルを敷いてそこに本を何冊か入れたものを風呂に持ち込んで至福の時をば過ごしますか。おっとペットボトルに入れた水割りのダカラも忘れてはいけない。風呂でのぼせてしまうからね。
 最近、気に入っているのが入浴剤の『バブ ゆずの香り』だ。
 これを一つ湯船の中に入れておく。バブにはね、へそがあって、そのへそを下向きに置くといいですぞ。バブの炭酸がそのへそに溜まってバブ本体を持ち上げて炭酸が抜けると底に当たって「コツッ」と音を出す。入れた端は「コツコツコツコツコツ……」と短い間隔で音を鳴らす。約0.5秒間隔だ。1分過ぎる頃からその間隔が長くなる。約1秒で「コツッコツッコツッ」てな感じだ。2分過ぎる頃から音は、「トトン、トトン、トトン」と変化してくる。音も軽くなっている。かなり痩せたんだろうねバブちゃん。3分30秒になると、また音が「コツコツコツコツ」に戻る。3分50秒を回るとバブ本体が大きく動きはじめる。かなり軽くなっているぞ。バブはもだえながら4分30秒、ついに垂直に立った。やった!もう音は泡の音ばかりだ。そして5分経過してバブは水面にお出ましになったぞよ。
 この時、薄くなったバブの中央部に穴が空いていなければ、そして運よくヘソを下にしたまま浮きあがったなら、これからが面白いのである。バブは浅くなったへそに炭酸が溜まると、「ポン」と吐き出す。これを推進力として水面をあちこちに動き回るのである。6分を越して小さくなったバブが健気にも「ポンポンポンポン……」と湯船の中で無邪気に遊んでいるのを眺めていると、なんだか愛しくなってくるんですなぁ。7分過ぎて、小豆ほどになったバブが、それでも「ポポポ……」とがんばり続け、ついに最後の時を迎えた。バブの残滓が完全に湯に溶けたのは7分23秒後だった。
「風呂ゆかば〜湯浸く香り〜」
「お湯の色、イエローグリーン、ゆずの香り少々に対し敬礼!」

 アホなことをやっていたらすっかり体が冷えてしまった。さあ、ゆずの香りに包まれて本でも読むとしますか。