コックス君とロベル君

 昨日、豊田市の南部を車で走っていた。天気もよかったし、聴いていたのが「ジプシーキングス」だったので、快調に幹線道路をかっ飛ばしていた。
 それにしても、この辺りにはパチンコ屋(賭博場)が多いね。トヨタ自動車の工員さんたちを狙ったものなんだけれども、この賭博場の寺銭から何割かは北朝鮮にわたっていることだろう。
 あるパチンコ屋の前の信号で停止した。そうしらたらラフな格好をした二人の白人が自転車で目の前の歩道を通っていった。そしてパチンコ屋の駐輪場に自転車を停めると店の中に入っていった。そうか、彼らもパチンコをやるんだ。年の頃なら20代前半くらいか。端正な顔立ちをした外人は、おそらくこの周辺の工場に務める技術者だろう。

 2人を見ていたら、思考が40年ほど過去に遡ってしまった。脳裏に外国人2人が登場してくるのである。
 ワシャは突っ張った高校生だった。放課後、太いスカマン(ズボン)に両手を突っ込んで、ズッチャラズッチャラと街中を歩いていた。JR駅前はワシャら凸凹高校の縄張りだった。いかれた無遠慮な他校生徒にはまともに歩かせないのである。1年前くらいまでは他校との勢力争いに終始していたが、ワシャらが3年になってすぐに近所の実業高校の番長連合(笑)と手打ちをしたので、抗争は集結していた。

 駅前の本屋の前に差し掛かった。不良でも本好きはいるんですよ。書店に入ろうとすると、ワシャの背後から「チョットイイデスカ〜」と声を掛けるやつがいる。
「なんじゃそのふざけた言い方は〜!」
 と、振り返ると、イカレタ高校生かと思いきや、ワイシャツにネクタイを締めた真面目そうな白人の若者が2人立って笑っている。
「な…なんスか?」
 と、黄色人種の若者は急にひるんだ。
「アナタハカミヲシンジマスカ〜?」
「神は信じません」
「ノーノーノーノー、ソレデハアナタハシアワセニハナレナイ」
「ならなくてもいいんですが……」
「ワタシノナマエハ『コックス』トイイマス」
「ボクノナマエハ『ロベル』トイイマス。アナタノナマエハナンデスカ?」
「私の名前はワルシャワと言います」
「オー、ワルシャワクンデスネ、ドウゾヨロシクオネガイシマス」
 ワシャは田舎の高校生だったので、日本語ではといえ、これほど長く外人と会話をしたことがなかった。チンピラとなら饒舌に喋れるんですよ。でもね、外人さんと喋ると口が渇いてきてしまって、うまく回らないんでガンス。
 要するにモルモン教の街頭勧誘だった。向こうのペースでペラペラと話をされ、チラシのようなものをもらって、10分程してようやく解放された。疲れた。

 それだけのことなんですが、その2人の名前は、ワシャの脳裏に焼き付いてしまった。それから外国人男子の若い2人連れを見ると「コックス君とロベル君だ」と発想するようになった。