ある結婚について

 ワシャの小学校からの同級生にヘンなヤツがいましてね、かりにSとしておきましょう。そいつとね、高校2年の時に同じクラスになったんですわ。その時も、高校で生徒会長をやるような変わり者で、そんな仲がいいわけでもなかったんですが、高校2年生でしたから、とくにいじめたりとかはせずに、クラスの中では普通の会話をしていました。

 修学旅行が迫って来て、班編成をするということになったんですわ。ワシャは学年でもトップクラスのワルだったものですから(だからワルシャワなんですけど)、どのみち普通の高校生たちは同じ班にはなりたくなかろうと思っていました。こういう班編成の時に、普通の奴らってけっこう無神経で、仲間であつまって「同じ班ね~!」って盛り上がる。仲間のいないもの、一匹狼などにまったく配慮をせずに無神経に喜び合う。

 ワシャの場合、ワル仲間のホウという男が同じクラスにいたんでまったく班編成もこだわらなかった。ワシャとホウがくっついていればどこかの班が吸収してくれる。しなきゃ恐いからね(笑)。だから班編成を教室の隅から、Hとともに見ているだけだった。

 10分くらい「あーでもないこーでもない」とやっているうちに、普通のまじめな生徒なのだがパチンコが大好きという「ケツラギ」くんがワシャに近寄ってきて、「ワルシャワさん、僕たちと同じ班になりませんか?」と、少しオネエのスパイスが入った声で話しかけてきた。パチンコ仲間3人のケツラギ、フラハヒ、ブブビまでは固まったらしいが、その他の人選がなかなかいいのがいないようだ。もちろんワシャはどこでもよかったので「いいよ」と返事をした。

 20分くらいすると、男女別でグループが固まり出している。ワシャの周囲にはホウとケツラギの仲間がたむろしている。

 ところが前述の生徒会長のSが浮いていた。どこの班もSのあるSを敬遠した格好だ。こういうことを普通の無神経な生徒は平然とする。どこにも仲間をつくれないSはおどおどしている。

「おい、S、オレの班に入れよ」

 ワシャが声を掛けた。ケツラギは表情で拒否っていたが、そんなものは関係ない。ワシャが入れると決めたんだ。文句は言わせない。Sは、一瞬だけ「助かった」という顔を見せたが、すぐさまいつもの喧しいSにもどって、「おうおうワルシャワ、おまえの班も悪くないなぁ、ガハハハハ」と呵々大笑したのである。ケツラギたちは、うんざりとした顔をしたけれど、「いいじゃねえか、学校トップのワルから生徒会長まで揃った班なんてそうないぜ」とホウがまぜっかえして、ワルシャワ班は成立した。

 この班が、修学旅行中、もっとも波乱万丈で楽しい3日間を過ごすのだが、その話は今日の本題とは違うのでまたの機会にゆずる。

 

 そのSのことである。一緒の班になってから急速に親しくなって、生徒会活動をしながらワル連中ともつきあうおもしろい立ち位置をとってくれた。なかなか言えないこともあるので、ここには書かないけれど、やばい橋もいくつか渡ったものである。

 その後も付き合いが途切れずに、現在も一緒に酒を飲んだりしているんですよ。

 

 Sが高校時代に付き合っていた娘がいた。大学時代にも交際は続き、Sが就職することになって「結婚をしよう」ということになった。長く付き合っていたし、性格も穏やかでいい子だったから、Sの周囲の友人はみんなその吉報を歓迎した。

 Sの彼女は、隣町に広く農地を持っている資産家の娘だった。その父親のところへ挨拶に行ったのだが、その家の立派なことに驚いたという。

 座敷に通され、父親の前で「お嬢さんをください」と頭を下げた。しかし、父親は、強硬に反対した。

 理由は、家の格が違うというものだった。Sの父親は体調が悪く、働くことがなかなかままならず、だからSはずっと市営住宅住まいであった。それでもSは大学を卒業し、地元の大手企業に就職した。それに娘とは6年越しの付き合いで、娘もSと結婚しようと思っているのだ。

 しかし、父親はぜったいに許さなかった。地元で何代も名士としてやってきた家柄である。その一族の大切な娘をどこの馬の骨とも判らない男にくれてやることなんかできない。そういうことであった。

 Sは立派だった。おそらく資産家の家より立派だった。

「わかりました」

 と、静かに答え引き下がった。

 確かに、資産がないことは事実だったし、己の愛以外になにも娘に与えるものを持ち合わせていない。父親が娘を心配する気持ちも理解できた。

 彼女の今後の幸福を考えた。自分と一緒に駆け落ち同然の結婚をするよりも、父親や家族、一族に祝福される幸せな未来もあるに違いない。

 Sは、彼女に別れを告げて去って行ったのだった。

 

 Sはそれから何年かして、前の彼女よりもずっときれいで性格のいい女性と知り合い、目出度くゴールインをしたのだった。ワシャは結婚式で友人代表として挨拶をさせてもらったが、そりゃあきれいなお嫁さんだったわい。その奥さんはホントにたよりになる人で、2年前にけっこう大事がワシャの身の回りで起きたのだが、その時に先頭で手伝ってくれたのも彼女だった。いい嫁さんをもらったもんだわい。

 Sはそれからよく働きましたぞ。結局、やつは2軒の家を建てて、今では子や孫たちと賑やかに暮らしているのじゃ。

 

 さて、ここからが本題である。

 今、秋篠宮皇子殿下のご長女の眞子さまと「結婚」ということで何かと話題になっている小室圭氏のことである。もうここまでの状況が煮詰まってしまったら、一刻も早く身を引くべきだ。資産家とS程度の格差でもSは身を引いた。彼女の、そして彼女の家の幸福を願ってのことである。

 残念ながら眞子さまの所属する天皇家と小室家では背負っているものの大きさがまったく違っている。それは小室家だけではなく、S家でも、ワルシャワ家でも同様で、一般庶民とは別次元の重き荷を背負っておられるのである。そのことにまで考えが及べば、Sのように身を引くことがもっとも賢明な選択であると思う。いかがか。