日曜日にBSプレミアム「たけし誕生」という番組をやっていた。北野武が主役で彼の来し方を、本人や関係者へのインタビューで構成してある佳作だった。そこでクローズアップされたのが「深見千五郎」という浅草芸人だった。彼は北野武の師匠であり、浅草でもっとも芸達者な芸人だった。北野武は、深見千五郎が育てたと言っていい。北野武は言う。
「芸では深見さんには勝てなかった」
「後年、深見さんの芸に似てきたな、と言われた時、オレが見ていたあの深見芸に近づいているのか……と思って、嬉しかったね」
「師匠は、芸は完成していたが成功はしなかった。晩年、舞台に上がれなくなってイライラしてたんじゃねえの。オレはテレビに映って成功はしたけど、芸が完成しなかった。どっちがいいと言えば、オレの方がいいかね(笑)」
番組は、「ビートたけし」という大スターを生んだ深見千五郎を深堀して、それをたけしに語らせることで「ビートたけし」とは何ものかを描いていた。
北野武が浅草の街に現われる。行先はもんじゃ焼き屋の「つくし」だ。その店のカウンターにたけしが座って、店の女将さんと深見千五郎を回想する。昔、ワシャは仲間と行ったことがあるので、なおさら番組に入りこんでしまった。そうか「つくし」に深見千五郎も足しげく通っていたんだね。
たけしはテレビに移り、忙しくなっていく。テレビを嫌っていた深見とはだんだんと疎遠になっていった。そんなテレビの影響もあって、時代に取り残されるように浅草フランス座の経営は傾いてくる。芸人たちはどんどんと整理されていく。深見も例外ではなかった。彼は、会社を経営していたかつての芸人仲間に救われて、化粧品のパッケージをやって食いつないだ。高い芸をもった男が化粧品を包むだけの仕事を延々とやるのである。
「イライラしてたんじゃねえの」
たけしのこの発言はこのエピソードの時に出た。イライラしたと思う。悔しかったと思う。でも、そんな時、たけしと再会し飲んだのだそうな。
「そしたら自然にわだかまりが溶けちゃって、その後、師匠が『たけしと飲んで、小遣いをもらっちゃった』なんて言いふらしていたのを聞いて、よかったなと思った」
たけしは訥々と語る。そうかなぁ、深見さんの人となりを見ていると、それも北野武志という弟子に気を使ったような気がするんだけど……。
深見千五郎、タバコの火の不始末により59歳で焼死する。浅草のアパートでのことであった。らしいと言えばらしい。