ストレス

 朝から雨が降っている。アジサイが精彩を欠いていたので慈雨なのだろうが、少し強い。久しぶりの感じがする。

 NHKスペシャルの「キラーストレス」
https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20160618
が放送された。よくぞこんなものでスペシャル番組をつくったものである。
 ストレスがいろいろな病気の根源にあることは誰もが理解している。それを「キラーストレス」などと恐ろしげなネーミングをして、喧伝することになにか意味があるのだろうか。センセーショナルに煽り立てて知識のない人を脅しているだけのことではないか。
 以下が番組ホームページの解説である。1回目はこんな内容だった。
《激動の社会の中、高まるばかりのストレス。国は、職場でのストレス検査と検査後の対策を企業に義務づけるなど、本格的なストレス対策に向けて動き出した。調査によれば、「仕事でストレスを感じている人」は80%を超えるというデータもあり、社会を取り巻くストレスは深刻だ。》
 おいおい、仕事でストレスを感じない人間なんていないだろう。当たり前の数字を提示しておいて、
《このシリーズが特に注目するのは、私たちの命を奪う可能性のある、いわば「キラーストレス」とでも呼ぶべきストレスの存在だ。脳科学や生理学など最先端の研究は、ストレスが人の体に「ストレスホルモンの暴走」を引き起こし、脳細胞や血管を破壊して、人を死に追い込む詳細なメカニズムを明らかにした。》
 NHKはいかにも人を死に追い込むキラーストレスが存在するかのように放送するが、あくまでも「可能性がある」だけの話。また衆愚(ワシャも含む)を騙そうとしている(笑)。
 NHKは13年前に『現代日本のストレス』という本を出版しているじゃないか。その中に書いてあることを焼きなおして、過激なパッケージに包みを替えただけの内容でしかない。で一特集をつくってしまうとは、さすが天下のイヌエッチケー(byなぎら健壱)。

 第2回は、そんなに恐ろしい「キラーストレス」を根治できる画期的な対策に迫っていく(笑)。いろいろもっともらしい単語が番組中に出てくるが、例えば「コーピング」とか「マインドフルネス」とか生真面目そうな学者が語るのだが、これも13年前の『現代日本人のストレス』ですでに出てくる。この「キラーストレス」の製作者がこの本を底本にしていることは明らかだ。
「コーピング」ってカタカナで言われると、なんだかすごいことのように思えるけれど、要は「対処」ということである。「ストレスに対して適当に対処しなさい」って、なにほどのことでもない。
 そこでNHKはほざく。
《今世界で、ストレスを減らすためのあるプログラムが広がっている。欧米の名だたる大企業が次々に導入。学校でも、そして刑務所のような場所でもこのストレス解消法が使われている。》
 これが「マインドフルネス」というコーピングですな。
 種明かしをすれば「呼吸法」「瞑想」を実践することであらゆる精神疾患から、キラーストレスから自己防衛できるというもの。単純に言えば「坐禅」である。最先端の研究とかなんとかいいながら、画面で得々と解説していたことは、2500年も前に釈迦がやっていた。その方法もお経に書き巡らされている。道元禅師だってそう言っていた。
 Nスペの内容程度のことは、山折哲雄『早朝坐禅』(祥伝社新書)、高田明和『一日10分の坐禅入門』(角川oneテーマ21)、板橋興宗/有田秀穂『われ、ただ足るを知る』(佼成出版社)などのほうがよほど詳しく丁寧に書かれてあって役に立つ。その手の本ならば禅の書をあたれば山ほど出てくる。
 そしてコーピングとして運動も有効だそうだが、そんなことは皆さんが知っている。当たり前のことをくどくどと2回にわたって放送するんじゃない。これじゃぁNスぺではなくて「あるある大事典」だわさ。