カスハラをするカス

 夕べ、NHKの「クローズアップ現代」で「カスハラ問題」を取り上げていた。

 カスタマーハラスメント、悪い客の嫌がらせのことを言う。それは知っていたし、「カス」が「カスタマー(客)」ということも理解してるのだが、どうしても「カス」が「滓」を連想させ「客の嫌がらせ」というよりも「滓(かす)野郎の嫌がらせ」と認識している。

今回の「クロ現」では、愛媛県伊方町のケースが紹介されていた。理不尽な要求やクレームをつけているくる厄介な市民、住民はどこにでもいる。要はカス野郎(以降は「カス」と呼ぶ)なんだが、こいつらの対応で職員は結構な時間を費やす。もちろんその時間は仕事ができずにカスの対応をすることになり、そのマイナスたるや、大きな金額になっていることは自明の理。これが全国で起きており、日本人は巨額な公費をドブに捨てているのだ。

 愛媛県伊方町ではカスのための対応を始めた。

伊方町 カスハラ対策で名札表記を名字のみに》

https://www3.nhk.or.jp/matsuyama-news/20240318/8000017994.html

 SNS全盛の時代である。フルネームを出すことは危険で、名字だけ、それもひらがなでというのは一計だ。ただそれだけでは甘いので、カウンター上に防犯カメラを設置して、カスの暴言を録画するという動きも出てきた。これもいい案だ。

 大昔の話ですよ(笑)。愛知県某市の建設部の窓口のことである。用地買収をしている部門にカスのクレーマーが訪れた。市道に敷地がかかって、担当者が買収交渉に自宅まで行った時の対応が悪いと激怒して市役所にやってきた。そこで味をしめた。

 とにかく担当職員たちは低姿勢で、カスがどんな罵詈雑言を浴びせようとも、ひたすら承っている。

「こいつはストレス解消にいいわい」

 ということで、わざわざ遠くの集落から3日を空けず役所の窓口を訪問するようになった。完全なカスハラクレーマーだった。

 しかし時代がよかった。当時の建設部の部長が叩き上げの人で、昔は番長をやっていたような強面だった。その番長部長が、たまたま在籍をしているときに、カスがやってきて、相変らず窓口で大声で怒鳴り散らしている。

 部長は不愉快そうな顔をしながらも、事情が呑み込めないので、イライラしながらも書類に目を通したりしていた。

 その時、カスのほうが動いた。

「窓際で偉そうに座っているヤツ、奥に引っ込んでいないで出てこい!」と、番長部長に仕掛けたのである。

 普通の幹部職員なら、会釈でもして目を逸らすか、書類を持って席を外すのが出来の山だろう。だが、番長部長は違った。ギロリとカスを睨んだのである。いわゆる昭和の不良用語で「メンタンを切る」という状態だった。

 カスはたんなるカスハラ男でしかないので、若山富三郎のようなメンタンを切られたことがなかったので、動揺してしまった。

「な、な、なにを睨んでいやあがる。殺すぞ」

 と、小声で言ったものである。

 これが番長部長の耳に届いた。番長部長、バン!と立ち上がる。勢いがよかったので椅子が転んだ。番長部長、間髪を入れず、ダンダンダンダンとカウンターまでやってきて「殺してみろよ!」と放った。

 思わぬ反撃を受けたカスは、腰を引きつつ両手を前に出し番長部長を押し留めるようにして「あんたが怒っちゃいけない」と言いながら「まあまあ」と番長部長をなだめるのだった。

 しかし番長部長は強い視線の照準をカスに合わせたまま微動だにしない。その番長部長には飲み仲間の強面の後輩が何人もいて、彼らは自分たちのことを「舎弟」と言っているが、その舎弟たちが兄貴分のところに続々と集まってきた。

「何かあったんですか、部長」

 と、番長部長に問いかける。直接、カスには声を掛けない。舎弟は同じフロアにいるから状況は分かっている。

「どうしたんですか、部長」

「何ですか、部長」

「何か楽しそうですね」

 カスの周りを勢いのありそうな職員数人が固めてしまう。番長部長はカスを「文句があるのか?」という表情で見下ろしている。

 こういう時って、カスを囲む輪が完璧ではいけないんですね。しめ切ってしまうと窮鼠猫を噛むということにもなりますので、1か所だけ逃げ道を空けておくんです。

 やっぱりカスは、そこからぶつぶつ言いながらもそそくさと帰っていきましたとさ。

 ま、昭和の話ですから、今ではなかなかこうはいきませんや。窓口や客商売の皆さんは、バカなカスが増殖しているのでご苦労されていることと思います。「X」だって便所の落書きみてーなもの増えていますしね。

 

 そうそうこの窓口クレーマーには事後談があって、番長部長グループがある居酒屋に行ったら、そのクレーマーが地元の市議会議員と飲んでいたんですと。

 酔っているし、市職員よりも偉い議員様と一緒に飲んでいるので、気持ちが大きくなったんでしょうね。

「こらぁ○○部長、お前の態度は悪過ぎるぞ~」とかからんできたんですわ。

 昭和の時代は、2次会、3次会なんて、そんな酔っ払いばっかりの世界ですから、番長部長グループはビクともしやしません。 

 ところがその年配の市議会議員は、長くやっているので○○部長の強さを知っているし、そもそも仲がよかった。

 そんなことも知らずに○○部長に突っ掛かったカスは、その後、まもなく用地買収に気持ちよく応じたそうです。

 あれ以来、役所であのカスを見たことはないと、窓口の職員は言っておりました。

「クロ現」の中に登場するカスも職員に「コロすぞ」とか凄んでいましたが、不意打ちでもない限り、そう簡単に人は殺せるものではありません。

「殺してみろよ」とまで言う必要はないですが、それくらいの気概をもって対峙していれば、カスといえどもそうそう手を出せるものではありません。

 こちらが弱腰と見るからつけあがって暴言を吐く。こちらが防衛力があることを見せつければ、敵は手を出してきません。国防と同じなんですね。