先月の25日に『旅と鉄道』増刊号を買った。副題が「寅さんの鉄道旅」である。買わないわけがない。その雑誌のページを何気なく繰っていると、美作滝尾駅のエピソードが出ていた。
第48作「寅次郎紅の花」のオープニング、松竹富士のすぐあとに出てくるシーンである。
〇田舎の駅
自転車でやってくる婦人。鳥のさえずり。
〇美作滝尾駅の看板
〇駅
夫人が自転車を停め、風呂敷包を抱えて駅の中に入る。
窓越しに駅舎の中が見える。
老人が机にむかって新聞を読んでいる。
〇駅舎の中
老人、新聞を読んでいる。
老人「尋ね人かぁ。どういうわけがあるんじゃろなぁ、こういう人らにゃぁ」
婦人、入ってきて、
婦人「なんと書いと?」
老人「えーと……寅、みんな心配しています。連絡してください。サクラ……家出したんじゃな」
婦人「なにが原因じゃろね、おとっちゃん」
老人「きまっとろうが、女じゃ。女つくって家出たんじゃ」
切符売りの窓口のむこうに寅次郎が現われる。
婦人「いやじゃねぇ」
寅、窓口から中をのぞいたり、時刻表を見上げたりしている。
老人「しょうもないヤツじゃぁどうせ」
婦人、風呂敷から弁当を出して老人の前に置く。
寅、窓口のガラスをコンコンと打つ。
寅「飯かい?」
婦人「どちらまで?」
寅「勝山までいくらだい?」
婦人「490円です」
この後、寅はホームでトンボを見つけて捕まえようとするが逃がしてしまう。駅舎の中の老人のほうを見て「逃がしちゃった」と照れ笑いをする。画面は駅の遠景に切り替わり、「男はつらいよ」のタイトルが入り、テーマ音楽が流れる。寅次郎作品最後のオープニングである。
このシーンで田舎の駅番の老人を演じているのが12日に亡くなられた桜井センリさんである。
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/121112/ent12111214350008-n1.htm
ワシャの場合、クレージーキャッツの桜井センリというより、「寅次郎シリーズ」の名バイプレーヤーとしての桜井センリのほうが印象が強い。なんと登場回数は10回を数える。準寅次郎ファミリーと言っていい。
第48作はチョイ役だった。しかし第20作では寅次郎とマドンナをあらそう平戸の神父である。かなり重要な役だ。第46作では瀬戸内海琴島のお節介な茶人を演じた。第17作では町の観光課長で、見事な「酋長の娘」の踊りを披露する。第37作では、帝釈天参道の上海軒の店主を好演していた。
どの役でも、気が弱いけれどほのぼのとした市井の人をさりげなく見せてくれた。味が薄いからこそ、どこに出してもそのシーンにしっくりと馴染むのだろう。
昭和の名優たちが次々に彼岸へと旅立っていく。秋だからかもしれないが淋しいなぁ。