もう地上波ではほとんで見るべき番組がない。夕べもそうだった。芸人が並んで「あーだこーだ」御託をならべるバラエティばかり。それでなくても悪い頭が、さらに悪くなりそうなのでテレビを切った。そこで閃いたのが書庫の奥にしまってあるDVDだった。「映画でも観よう」ということになった。選んだのは「男はつらいよ」の第19作、嵐寛寿郎がゲストスターの「寅次郎と殿様」である。
この作品は「男はつらいよ」の中でも喜劇として随一のものといっていい。渥美清に対し、往年の大スターアラカンと浅草喜劇のエースである三木のり平が絡む。面白くないわけがない。マドンナは27歳の真野響子、なんとなく吉永小百合をなぞったような役作りだったが、上品で意志の強い女性を好演している。その他の寅屋の皆さんは、相変わらずのお元気で、ドタバタ騒ぎがなんども展開する。今回の寅次郎帰郷のドタバタは「鯉のぼり事件」である。この季節感もあって、本作品を選んだんだけどね(笑)。
風薫る五月、寅屋の中庭では博と満男が大きな鯉のぼりを揚げている。そこに寅次郎が久しぶりの寅屋の敷居をまたぐ。今回も上機嫌な帰郷である。「満男をよべ、土産だ」と小さな手持ちの紙の鯉のぼりを手渡す。大慌てで、庭の鯉のぼりを下ろそうとする博……またもや寅屋の茶の間に嵐が巻き起こるのであった。
そんなのを観ていたんですよ。
風吹けば来るや隣の鯉幟 虚子