冗談

「いい冗談が言える人は、思いやりのある心のやさしい人だと思う」
 と、言ったのは映画監督の山田洋次さんである。もちろん山田さんの念頭にあるのは「車寅次郎」に他ならない。寅の冗談はおもしろかった。
 大井川にかかる蓬莱橋。寅次郎が渡っている。対岸から編み笠を被った雲水がやってくる。すれ違いざまに雲水がズバリと言う。
「誠に失礼とは存じますが、あなた、お顔に女難の相が出てまいります。御用心なさるように」
 この指摘に寅次郎手を合わせて応える。
「分かっております。物心ついてこの方、その事で苦しみぬいております」
 チーン。
 映画館は大爆笑だ。もっとも寅次郎は冗談ではなく本気でそう言っているのだが、観客にとっては「寅、冗談だろう」ということになる。

「インフルエンザのお蔭でほとんど食欲がない(涙)。せめてきれいなオネエチャンを食べたい」
 こんな風なことを言ったのは、寅次郎ではない。作家の百田尚樹さんのツイッターである。確かにいささか品性に欠ける書き込みではある。ご本人もそのことに気づいておられる。大阪人にありがちな「ジョーダンでんがな」ということなのである。しかし、サヨクマスコミは黙っていなかった。朝日新聞などが食いついてきて、作家の冗談から安倍政権批判にまで発展させる。
「ジョーダンも言えんのかいな」
 と、百田さんは驚く。

 夏目漱石が『ガリバー旅行記』について書いた評論の中でこんなことを言っている。
《冗談も休み休み云う人の冗談は自ら冗談と真面目の境がつくが、平常冗談を商売にして居る者の冗談は普通の談話と区別することができない。否、冗談が即ち普通の談話であって、其作者の状態のである。》
 スイフトのことを言っているのだが、創作者ということでいえば百田さんにも通じるものがある。作家商売はもともと創作をすることが生業だから、作家のツイッターくらいでいちいち社会の公器(笑)である大マスコミが反応するなってことだわさ。

 そうそう、今日は47年前に『男はつらいよ』の第一作が公開された日である。それから48作、冗談で塗り固めたような男は、最高の冗談をかっ飛ばしながら日本全国で笑いの渦を巻き起こしていった。
 冗談が表通りをどうどうと歩ける大らかな社会が消えて久しい。