リリーが尾を引いている

 午前4時起床。夕べは先輩たちとしこたま飲んだ。
「飲んだ翌日は、日記の更新が遅いですよね」
 と、友だちがら言われたことがある。おおむねそんなところだが、今朝はちょっと違う。リリーが尾を引いていたのだ。
 一昨日の夜、「男はつらいよ」第15作で30代のリリーに会った。今度は40代のリリーに会いたくなって、朝から第25作「寅次郎ハイビスカスの花」を見ていたのだ。

 この作もいいねぇ。寅とリリーの掛け合いがおもしろい。
 リリーが沖縄で倒れ、入院する。そこに寅次郎が柴又から駆けつける。病室での、愛情に満ちた二人のやりとりは生半可なラブストーリーなど足元にも及ばない。浜辺の民家での、リリーの告白もよかった。

 寅が水族館から帰ってくる。一日、遊んでいたことを夕餉の支度をしているリリーに言い訳をする寅。リリーが思いつめた表情で言う。
「明日から働くことにしたの」
「バカだねお前。そんなことしたら元も粉もなくなっちゃうよ」
 寅は、花でも眺めて養生していろ、と言うのだ。
「貯金があったろう」
 そう言う寅に通帳を見せて、もう使い果たしたとリリーが答える。
「じゃぁオレがなんとかしてやるよ」
「やだね!男に食わせてもらうなんてまっぴら」
「水臭いことをいうなよ、オレとオマエの仲じゃないか」
 ここからリリーの表情が変わる。実に色っぽい顔を見せる。
「でも、夫婦じゃないだろ。あんたとあたしが夫婦だったら別よ。でも、違うでしょ」
 このリリーのセリフと表情に、あわてふためく寅次郎。
「バカだね、お互い所帯なんか持つガラかよ。まじめな面してヘンなことを言うなよ」
 寅の様子を眺めていたリリーは目に涙をためてこうつぶやく。
「あんた、女の気持なんかわかんないよね」

 ピュアな寅次郎は、リリーの告白に逃げてしまったのである。その後、民家のせがれを巻き込んでの大げんかがあって、翌日、二人は別々に本土に帰るのだった。

 柴又にもどって、再会し、今度は寅から独り言のような「一緒になろうか」というプロポーズがあるのだが、やはりドギマギしてしまう寅を見て、リリーは「冗談はよしてよ」と受け流してしまう。
 そして、柴又駅での別れの場。電車で去っていくリリーに「幸せになれよ」と声を投げる寅次郎だった。
 場面が変わる。青空に入道雲が伸びている。
 山中のバス停で寅次郎が一人でバスを待っている。そこをマイクロバスが通過する。
「なんだ違うバスか!」
 マイクロバスは少し過ぎて停まる。黄色い派手なドレスを着た女が降りる。顔はあえて見せない。寅次郎の前に立つ女。その女を見上げ、ニヤリと笑う寅次郎。
「どこかでお目にかかったようなお顔ですが、姐さん、どこのどなたです」
 ここで女の顔が大写しになる。もちろんリリーである。
「以前、お兄さんにお世話になった女ですよ」
「はて、こんないい女をお世話した覚えはございませんが」
「ございませんか?この薄情もの」
 柴又駅の別れのシーンの次がこの再会のシーンである。せわしないといえばそうなのだが、それでも観客は寅とリリーが再会したことに胸をなでおろすのである。この映画は大学のときに名古屋のどこかの映画館で観たと思うが、このシーンの時、館内にどーっと安堵感がひろがったことを覚えている。
 この後のセリフもいいので、紹介しますね。
リリーが手短に近況を報告し、今度は寅に尋ねる。
「お兄さんこそ、何してんのさ、こんなところで」
 この次の寅次郎のセリフはなかなか言えませんぞ。
「おれはよぉ……リリーの夢を見ていたのよ」
 車寅次郎は格好よすぎる。