箴言から考える

 箴言司馬遼太郎の『竜馬がゆく』から引きたい。

《仕事というものは騎手と馬の関係だ、と竜馬は、ときに物哀しくもそう思う。いかに馬術の名人でもおいぼれ馬に乗ってはどうにもならない。少々へたな騎手でも駿馬にまたがれば千里も征けるのだ。桂や広沢における長州藩、西郷や大久保、五代、黒田における薩摩藩は、いずれも千里の名馬である。土州浪士中岡慎太郎にいたっては、馬さえないではないか。徒歩でかけまわっているようなものだ。》

 この竜馬の思いは、今を生きる我々にも身につまされる話でね、会社員でもいいし公務員でもいいけれど、この文章に当てはめて、現状を考えてもらいたい。

 長州藩薩摩藩は動乱の幕末にあって、極東アジアで日本の立ち位置をしっかりと把握していた。例えば長州では桂小五郎らが藩政を牛耳り、藩自体を駿馬に換えていたし、薩摩は島津斉彬という名騎手が西郷、大久保らを指導し、藩を駿馬に育ててあった。

 しかし、土佐藩はどうかというと、藩主の山内容堂は、自分のことを英明だと思い込んでいるバカで、鯨飲候と呼ばれる大酒のみでもあった。だからそのバカの配下は、世界情勢を見渡せない頑迷な佐幕派ばかりで、桂や西郷よりモノがいいと言われた中岡は、藩の支援もなく孤軍奮闘している有り様だった。

 現在でもあるでしょ。自分のことを「英明」だと確信しているリーダーが(笑)。そう思った瞬間にバカに成り下がるんだけど、こればっかりは時代がどれほど回ろうとも、世に愚か者の種は尽きねえ七里が浜~~~なのである。

 こんな話を聞いた。けっこう長く務めている某自治体の首長に対して、とある議員が「予算は潤沢にあるにも関わず、今期に入ってから大型事業が動いていないのはなぜか?」と、本会議で問うた。これに対してトップは答えず、部下の職員がうだうだと答えにもなっていない答弁を繰り返した。それでも首長としては、その議員に辛辣に言われたことが苦になっていたようで、別の機会にこんな言い訳をしていたそうな。

「今期、大型事業がない理由として、すでにやる予定のものについては前倒しして実施してきた。だから空白のように見えるが、やることはやってきたし、次に大型事業を始めるための準備期間でもある」

 と、自信満々に言い放った。

 おいお~い、それって言い訳にもなってないよ(笑)。なにも事業をやっていないから、予算が余ってしまったので、基金(貯金)に積んでおきますでは、市民はなんの恩恵も得られない。

 次に進める大型事業があるなら、それを早めに着手すればいいだけのことで、予算のあるうちにやれることはやっておくことが大切だ。

「資材も高騰している。だから様子を見ている」とも言っていた。

 様子を見ていて、さらに資材が値上がりしたらどうするんじゃい!やるべきタイミングに、確実に着手しておくことが大切だ。

 まわりの見えないトップ、自分が家来の誰よりも英明で経験値もあると思い込んでしまった山内容堂では、中岡慎太郎がどれほど優秀な志士でも、維新の夜明けは見られませんわなぁ(泣)。