声をよく掛けられた(笑)

 大祭の2日目。本祭は滞りなく終了し、大広間で直会(なおらい)が始まっている。

 ワシャの町には県議会議員が2人いるのだが、その一方の自民党議員が本祭に出席し、直会にも参加した。長い挨拶を終えると、その県議、弁当も開かず「所用があるので」とそそくさと帰っていった。

 そんなことは意にも介さず、長老とワシャは「獺祭」を呑んでいる(笑)。のどかな春のひと時だった。

 そのうちに餅配りの準備をするということで、飲んだくれの長老連は隅っこに追いやられたが、そんなことにはまったくめげずに気炎を上げているのだった。

 午後2時を過ぎて、雨脚がやや強くなっている。さすがの長老連も、そろそろ持ち場につかないと、女性理事から大目玉をくらう。

 ワシャはというと、総代から法被を受け取って、それを羽織って餅配りのテントに行く。4年前までは餅投げをやっていたんだけれど、コロナ以降、餅配りになった。まぁ老人や女性には危険な餅投げより評判がいいんですね。

 お参りを済ませた参拝者の導線上にテントを構えてあり、そこに数人の係が張り付いた。午後2時半にアナウンスが入って、参拝が始まった。参道から外の公道にまで並んだ皆さん、雨の中ご苦労様です。

 人が動き始めて10分ほどした時、リベラル政党の代議士がテントに近付いてきた。その議員、悪い人ではないんだけれど、所属政党が嫌いなので素知らぬ顔をして餅配りに専念していると・・・。

ワルシャワさん!」

と、声を掛けてくるではあ~りませんか。ワシャが目的かい!

ワルシャワさん、どうして凸凹商事の社外役員を辞められたんですか?」

と、問うてくるではないかいな。

「いやぁいろいろありまして・・・」などとお茶を濁していると、神社総代が通りかかり、「○○先生も餅を配ってくださいよ」と法被を渡したのだった。

 これ代議士の意識がワシャから逸れた。ラッキー。代議士は、餅配りの最前列に入ってうれしそうに参拝者に餅を配り始める。

 15分くらい経った頃、議員の後ろのテントの端っこで餅の袋を並べていると、また声がかかった。

「ワシャさん」

 振り返ると、神事に参加した自民党県議とは違うもう一方の野党系の県会議員が立っていた。ワシャは、この議員とは思想信条が違い、よく議論になったりするんだけど、勉強熱心だし、政治家然としていないので、昔から信頼関係を構築していた。

 久し振りだったので近況などを報告し合ってワイワイやっていると、それに気が付いた代議士が振り返った。

代議士と県議、今は党派が違うけれど、以前は同じ政党に籍を置いていた仲間同士なのだ。だから、

「□□さん、交代してくださいよ」

 と、さっさと法被を脱いで県議に着せてしまった。そして餅配りの最前線へと押し出す。

「いいんですか?」と野党系議員は心配そうな顔をする。この辺りが、神事に参加した自民党県議の地盤であることを知っているのだ。

でもね元々労組出身の総代は知らん顔しているし、ワシャだってそんなこと知りませんがな(笑)。

 野党系県議は楽しそうに参拝者に餅を配っていくのでありました。

 

 後で聞いた話なんだけど、リベラルの代議士の事務所からは「大祭」の日程確認が入っていたという。そのことを同じ選挙区の与党系代議士の下にいる前述の自民党県議に伝えたんだけど、どうやら上には伝わっていないようで、結局、自民党の代議士は顔を見せなかった。

 この選挙区では圧倒的に野党系代議士が強い。このあたりの動きの差だろうか。

 

 国会議員も県会議員もお帰りになり、またワシャが餅を配っていると、

ワルシャワさん」

 と、声がかかった。「またかいな」と思いつつ、振り返ると、今度は市議会議員が立っているではあ~りませんか。

 皆さん、マメですなぁ。ワシャのよ~く知っている元議員は、そういうことが大嫌いで、ついに議員を辞めちまったのがいるんですが、やはり議員たるものドブ板、地域廻りが欠かせないんですね(笑)。

 この人は隣町を地盤にしている議員なので、誰に憚ることもない。さっさと法被を着せて最前列に押し出したのでありました。

 

 その議員をこき使っていると、またまた背後から「あの~」と声が掛った。地元で消防団員をやっている後輩で、人柄のいい若者だった。

「どうしたの?」と尋ねると、「実はベトナムからやってきている若者がいまして」と言う彼の背後には、前日に準備を手伝ってくれたベトナムの若者たちが十数人くらい立っている。

「彼たちにもお餅をいただけるでしょうか?」

 というから、ワシャは何の権限もないくせに、「いいよいいよ」と請け合った。

 消防団員はその話をベトナム人に伝え、彼らは大喜びで参拝の列に並んだ。30分くらいかけて、お参りを済ませようやくテントの前に戻ってきた。でも戸惑っている。

 だからこっちから「お参りありがとう!」と声を掛けて、それぞれに餅を手渡したのでありました。

 やっぱりベトナム人はいいね。8割が仏教と言われているし、日本と文化的風土が類似している。

 どこぞの宗教だったら、神社にお参りなど絶対にできないし、中には社殿を破壊する輩もいたりする。もちろんお参りをしない連中に餅やお菓子などは配れない。差別ではなくそれが日本のルール、神社のルールなのだ。

 ベトナムの若者たち、きちんと手を合わせてお参りをしてくれた。その表情はとても優しかった。