陽春花形歌舞伎?

 昨日、御園座で歌舞伎を観る。3月に凸凹商事の会議で頑張ったので、ご褒美にS席での観劇となった。感激~~~でもないのじゃ。

 いくら、武漢ウイルス禍で演劇などの制限がかかったにせよ、さすがに「身替座禅」という松羽目ものがメインでは寂しかろう。松羽目ものっていうのは、能舞台にあるような大きな松を描いた背景の前で演じる能狂言をベースにした演目のことで、いくつかある演目の中継ぎの役割を果たしている。歌舞伎で言えば小ネタに分類してもいい。

 主人公の山蔭右京を菊之助、奥方玉の井が彦三郎、太郎冠者が萬太郎、侍女が莟玉と吉太朗というのも、まあいい。「身替座禅」が尾上家の得意な演目だからね。しかし、この役者の陣容もその後ろに例えば忠臣蔵ものとかの純歌舞伎の大ネタをもってこなくっちゃ。これでは御園座がなめられてんのが見え見えでっせ。

 平成26年3月歌舞伎座。出し物は全部で7つ。その中に「身替座禅」が入っているがトリじゃない。しかし役者がすごい。右京に菊五郎玉の井吉右衛門、太郎冠者が又五郎と大看板が三枚だ。

 平成22年10月御園座だって、演目が6つあって、大ネタ前の中次で「身替座禅」。役者は菊五郎翫雀が組んでいる。この演目の後に「弁天娘女男白波」があって、「浜松屋見世先の場」と「稲瀬川勢揃いの場」が待っているんだ。「待ってました!」と声を掛けてえじゃねえかい。

 それがですよ。踊りが二番と、歌舞伎の解説。カルチャーセンターの歌舞伎講座じゃないんだよ(泣)。こちとら大向こうの三十年選手なんだぞ。そして30分の休憩が入って「身替座禅」ではいお仕舞いって、どうしちゃったのかなぁ、名古屋の客がバカにされているのか、御園座の経営に銀行屋が介入してきてからどうも御園座がパッとしない。

 ワルのりしてワシャのもっている過去の筋書で「身替座禅」を調べると、平成16年には2月に南座、12月に歌舞伎座で掛けられている。南座は、菊五郎右京、仁左衛門玉の井、左団次太郎冠者、侍女が翫雀(現・鴈次郎)、亀治郎(現・猿之助)とすごいラインナップだ。これは観ておいてよかった。歌舞伎座は、勘九郎右京、これは今は亡き18代目勘三郎ですね。三津五郎玉の井、これも今は亡き10代目です。太郎冠者が橋之介(現・芝翫)、侍女が門之助に七之助、これも歌舞伎の歴史に残る「身替座禅」だった。

 さらに平成12年新橋演舞場。ここでは右京をやはり菊五郎が演じ、玉の井田之助がやったんだけど、この玉の井がホントぶっさいくで歴代でも一番醜女だった。これがインパクトがあって印象に残った次第です。

 さらに昭和58年10月までさかのぼると、18代目の勘三郎が右京を、17代目の勘三郎玉の井を、太郎冠者を八十助がやっていたんですね。そういえば17代目の憎々しげな玉の井が脳裏に残っておりました。

 この時の演目も8つを並べており、御園座顔見世の顔として、尾上松緑(2)、尾上梅幸(7)、中村勘三郎(17)、市川羽左衛門中村芝翫(7)、中村吉右衛門尾上菊五郎中村勘九郎(5)、坂東三津五郎(9)、坂東八十助(5)と国宝級がずらずらと並んでいる。一格下でも萬次郎、藤十郎芝雀、彦三郎が揃っていた。ここには御園座、名古屋に対する敬意のようなものを感じる。

 それに比べれば、令和4年は菊五郎と萬次郎と若手3人だけという感じですわな。

 菊之助は父の芸を受け継ぎ、さらによくなってきている。彦三郎も恐い玉の井を好演した。萬太郎の太郎冠者もそれなりに出来上がっていたし、莟玉の侍女の千枝も可愛らしかった。狂言としてはいいんですよ、とても。でも、全体が薄い。いくらなんでもこんな興行を続けていると名古屋では歌舞伎は入らないという事態になりかねない。卵か鶏ということなんだけど、芸どころ名古屋なんていうものはとうの昔に消えている。娯楽が多様化し、スターは歌舞伎俳優以上の人気を誇るものが数多出てきている。下手な歌舞伎役者より氷川きよしのほうが集客力がある時代なのだ。

 一時期、文楽が衰退の一途をたどり、それでもなんとか踏みとどまっている。大看板が何枚も倒れ、その上にこの武漢禍で集客が出来なくなっている。ここが先途である。ここで踏みとどまらないと歌舞伎は能の轍を踏むことにもなりかねない。

 次世代の大看板は、海老蔵猿之助菊之助愛之助勘九郎七之助獅童幸四郎とまことに薄い。この集団の次にひかえる莟玉や米吉に期待したいが、今回の莟玉を観て、顔立ちはいいのだが首が太い。あの顔で玉三郎くらいの首をつくることができればいい役者になると思うのだが・・・。

 

 久し振りの歌舞伎で楽しかったんだが、薄い出演陣を目の当たりにすると、歌舞伎の行く末が案じられ、気の重い帰路になった。なにしろ昼の部の終了が午後2時半でっせ。「反省会で名古屋で飲みましょう」と誘っても、昼日中から酔っているわけにもいかず、仲間はみんな高島屋などに散って行った。

 悔しいのでワシャも高島屋三省堂に行って、ウクライナの関係本を買いまくったのであった。

 歌舞伎公演、昼の部でもちゃんと夕方までやれよ(泣)。