ピラミッドの頂点の大学

 というタイトルで、評論家の呉智英さんが、昨日発売の「週刊ポスト」に書いておられる。

「ピラミッドの頂点」というから、東京大学のことと思いきや、さすが呉さん、東京大学など屁とも思っていない。呉さんにとっては、司馬遼太郎の卒業した「大阪外語大学蒙古学科」とか、大城立裕が中退した「東亜同文書院」などが、文筆業界の学歴マウンティングの頂点に立っていると言われる。確かに。

 呉さん、さらに続ける。

《そもそも大学はおろか高校・中学さえ出ていないとなると、圧勝である。推理小説界の雄、松本清張。書誌学の巨人、森銑三(せんぞう)と柴田宵曲(しょうきょく)。いずれも尋常小学校卒だ。》

 呉さんは言う。

《私は自分の最終学歴にずっとコンプレックスを抱いていた。普通の就職にはまずまずのランクだが、文筆業界では有象無象の扱いだ。》

 有象無象大学は早稲田である。

 一昨日の日テレの「おしゃれイズム」に四代目の猿之助がゲストで登場していた。メインパーソナリティは、漫才師の上田晋也、俳優の藤木直人、なにをやっているのか解らない森泉である。このとき学歴の話になった。上田と藤木は早稲田大学猿之助と森が慶応大学だった。かれらは早慶を比較して笑いをとりながら、それでも視聴者の多くに学歴マウンティングをやっている。もちろん本人たちはそんなことをつゆほども思っていないだろうが。

 呉さんの話を続ける。呉さんは、松本清張森銑三に憧れて、《そこで私は工業高校卒、いや工業高校中退という学歴を獲得しようとした。》と書いている。これは何年か前にご本人が、直接話しておられたので間違いない。呉さんは、心の底から、高卒の最終学歴を欲していた。しかし、ルール上できないということで断念したそうな。

 呉さんのエッセイには、公務員学歴の頂点に立つ東京大学がまったく登場しなかった。語るほどの価値もないということなにかもしれない。

 

司馬遼太郎が考えたこと』(新潮社)の7巻に、《無題(「大学受験なんかこわくない」アンケート)》と題された短い文章がある。ここで、若き司馬さんが、数学が不得意で、大阪高校に落ち、弘前大学に落ち、最終的に受験科目に数学のない大阪外語大学を受けて合格する。そしてこうぼやく。

《入学してみたら、ひどいことになった。勉強ばかりで、小学校なみに予習復習をしなくてはついていけない。もう一度やり直しがきくとして、大学に入るとしたら、早稲田あたりでのびのび青春を楽しみたいと思う。》

 呉さんが、文筆業界の頂点と見上げた大阪外大の司馬さんは、呉さんの早稲田でもう一度やり直したいと思っていた。

 おもしろいものですな。