どうしても欲しい本(2冊)があって、これだけはいつもの本屋では買えない。「ワルシャワさんはこの手の本も買うんだ」と思われたくないのである。だから「e−hon」で取り置き注文もできない。仕方がないので郊外の大型書店へ行った。
結果としてそこにはなかった。でも、せっかく来たので本棚を眺めていると、さすが名古屋の老舗本屋の支店だった。ラインナップがいい。読みたい本がすぐに抱えきれなくなった。
その中の一冊は『水木しげる 妖怪・戦争・そして、人間』(河出書房新社)である。水木しげるのインタビューや対談、水木研究者による論考などが載っている。呉智英さんや荒俣宏さんの名前も目次で確認したので、速攻で購入しましたぞ。水木しげるの漫画「錬金術」も掲載されていて、やはり水木マンガは名作だなぁ。
「錬金術」。ご存じ「ねずみ男」が登場する。ただし「鬼太郎」の「ねずみ男」ではなく「いんちき道士」の役として活躍をしている。
話はこんなんである。
夫婦がいんちき道士に騙されて、石ころを金(きん)に変える秘法を365回も試し、失敗を繰り返している。この詐欺に気がついた子供が道士のもとに行って「これ以上、ぼくの両親をまどわさないでくれ」と頼む。道士、それに答えて曰く。
「お前達が幸福になったのは錬金術をはじめたからじゃないか。瓦が金(きん)になりはしないかという果てしない希望、それによってもたらされる充実した日々にある」
ねずみ男、いいことを言う。12ページばかりの短編だが、金(かね)を得ることに汲々としている日本人に厳しい一作だった。
帰り道、ちょっと用事があったので近くのターミナル駅に寄った。そこには地下通路があるのだが、地下に下りる階段と途中の広い踊り場以外は陽が当たらないし、風通しもいいのでよく利用する。そこには以前からホームレスが住み着いていた。踊り場にさしかかると、ちょうど地上の高木が大きな木陰をつくっていた。そこに設置してある涼しげなベンチでオジサンは横になっていた。
ワシャはその横を汗を拭きながらアクセクと用達のために急ぎ足で通り過ぎる。おそらく金銭的にはワシャのほうが恵まれているのだろうが、精神的にはどうかというと、おそらくホームレスのオジサンに軍配が上がるのではないか。まどろみの午後である(泣)。