昭和の下町

 昨日の「出没!アド街ック天国」は「亀有」だった。もちろん両さんは紹介されているし、下町の店が何軒も登場した。その中に、昭和の香がするショッピングセンターが紹介されていた。大きな一つの建物(といってもバラック風だが)の中に小さい店が何軒もひしめいている。
そういえば昔ワシャの住んでいた駅前商店街にも、迷路のようになったショッピングセンターがあったなぁ。そこは近所のガキの格好の遊び場所だったし、そこだけでなく、商店街一帯が、ワシャらのワンダーランドだった。
 端切れ屋、染め物屋、駄菓子屋、泥鰌屋、床屋、八百屋、金物屋、仏壇屋、時計屋、表通りから裏通りに抜けられるところは、みんな、子供たちの抜け道で、商売をやっているその横を、泥だらけのガキどもがパタパタと駆け回っている。でもほとんどの店で怒られるようなことはなかった。
 だけど一軒だけ、必ず怒られたところがある。材木屋だった。店の裏にトタン屋根のかなり広い材木置き場があって、そこには、種々雑多な木材が並べてあった。あまり記憶に残っていないけれど、間口で20mくらい、奥行きで10mくらいあったのかなぁ。もちろん材木置き場は、そこで大人たちが材木を見ながら売買交渉もしていいたから、細い通路が縦横に張り巡らされていて、迷路のようになっていた。ここをクソガキが放っておくわけがないじゃないですか(笑)。
 でもね、材木置き場には怖いオジサンがいた。ワシャらは通称「バカオジサン」と呼んでいた。ワシャらが材木置き場に入りこんでいるのを見つけると、「コラー!」ではなくなぜか「バカー!」と怒鳴ったからだ。バカオジサンに見つかるとワシャらは蜘蛛の子を散らすように逃げたものである。
 今、考えてみれば、あのオジサンも子供のことを心配して怒っていてくれたんだなぁと思い返す。昔はね、勝手に材木置き場に入りこんでガキが怪我をしたって、そんなものガキの自己責任ですよ。今ならさしずめ「立ち入り禁止措置をしていなかった材木屋が悪い」とか言われちゃうんでしょうが、当時の大人は厳しかった。「そんなもの危険な場所に立ち入ったガキが悪い、痛い思いをするのは当りまえだ」と、親ですらそう言った。だからガキはガキで、自分たちの責任で、危険な場所で遊んだものである。そんな風潮だから、ガキが入りこんだら、放っておけばいいのだが、バカオジサンは、一所懸命に子供たちを怒鳴った。子供たちにからかわれながらも、来る日も来る日も叱り続けた。
 亀有の、ショッピングセンターの映像を見ていてそんなことを思い出していた。