12月6日の日記にOBと呑んだことを書いた。その人はワシャの酒の師匠でもあるのだが、その人から若いころのいろいろな話を聞いたものだ。もう時効になっているものもあるので、少し話したい。仮にその方をケムさんと呼ぼう。
ケムさんが20代前半の頃だったから、かれこれ45年も前のことである。ケムさん、職場の仲間4人で買ったばかりの新車で、信州は木曽谷にまでドライブに行ったそうな。
さて、昼食と相なった。なにを食そうかといっても、木曽谷の山の中のこと、そんなに選択肢があるわきゃない。峠に干からびたような食堂が一軒あるだけ。そこに車を停めて4人は暖簾をくぐった。
まぁ、どんぶり飯とかうどんとか、適当に食うものはあったんでしょう。しかし、このあたりの描写をケムさんは省略して話してくれなかった。だから、ワシャも皆さんにお伝えできない。
店の中に入ったケムさん、壁を見るとお品書きの中に「カラス」と書いてあるのを見つけた。好奇心が旺盛なケムさんは、気味悪がる仲間を尻目に、さっそくカラスを頼んだのだった。
結局、うまくはなかったらしい……というか、きわめてまずかったようである。
その証拠に、あまりのまずさに仲間の一人が気絶してしまった。医者を呼んだり手当てをしたものの、どうも芳しくない。
「これは身内を呼んだほうがいいだろう」
ということになって、結局、三河から新婚早々の奥さんを呼び出すはめになったという。
翌日になって快復をして、ことなきを得たが、それほどカラスの肉は不味かったということらしい。
農学者で文筆家で「鋼鉄の胃袋」の異名をもつ小泉武夫さんが『不味い!』(新潮社)を上梓しておられる。美味いものを書いた本は数多あれども、不味いものばかりを書いた本は、おそらくこの本しかないだろう。29の不味い食いものについて書いてあった。その中でもとびきり不味そうなのが「カラスの肉」である。ワシャも小泉先生ほどではないにせよ、よほどなんでも食ってきた(トマトとピーマンは勘弁してね・笑)。しかし、このルポを読んで、これは無理だと思った。小泉先生ですら「体が拒絶反応を示すほど不味い」と言っておられる。不味さの描写を引こうとも思ったが、とてもではないが引けない。どうしてもという方は、ぜひ図書館ででもお読みくだされ。ううう……。
小泉さんの「カラスの肉」を読んで、ケムさんの仲間が倒れたのが、拒絶反応によるものだということを理解した次第である。