御嶽山

 身内に山登りが好きなやつがいる。先月もスイスに行っていたということで、なんだか派手なハンカチだかテーブルクロスだかわかんないものをお土産にくれたっけ。
 そいつが「秋になるとよく御嶽に行く」と言っていた。そのことを覚えていたので、噴火のニュー氏が伝わってきた際に、少し心配になってメールを出した。
御嶽山が噴火しましたが、大丈夫ですか?」
 しかし、返信がない。心配していたら、数時間後にメールがあって「今、奥三河の山を縦走している」とのことだった。ひとまず身内の心配は去ったけれども、御嶽山の救助活動はなかなか進まないようだ。ヘリコプターからの俯瞰映像を見ると、山頂の灰に埋まった山荘の心細さはいかばかりであろうか。その周辺で活動する自衛隊や警察の人たちも、大きな火口に比べて芥子粒のように小さい。大自然と人間との途方もない差を感じる映像だった。

 以下の話はふざけているのではないのでご容赦を。
 昨日、某所でコーヒーを飲んでいるときのことである。となりの席に座っている60代の小ざっぱりとした夫婦が御嶽山の噴火を話題にしていた。その中で男性がこう言った。
「中乗山(なかのりさん)が噴火したのかなぁ?」
 それを聞いて、ワシャはズルッと滑ってしまった。
 おそらく発言の主は木曽節を思い出したに違いない。聞いたことあるでしょ。
「木曽のなぁ〜中乗りさん、木曽の御嶽山はナンジャラホイ。夏でも寒いヨイヨイヨイ……」って民謡です。
 そこに出てくる「中乗りさん」を「中乗山」と思って、御嶽山系の中の山の一つだと思っているのだろう。実はワシャも昔はそう思っていた。
 だけどこの唄の中に出てくる「中乗りさん」は船頭のことなのである。尾張藩は自領だった木曽地方から材木を木曽川を使って運搬した。材はいかだを組んで流す。そこに船頭が乗り込んで、舳(へさき)と艫(とも)と、その中間の位置でいかだを操る。真ん中の船頭が中乗りと呼ばれる。
 木曽節は、船頭唄なのである。