六月大歌舞伎(昼の部)

 昨日、御園座に行く。歌舞伎仲間と名古屋駅で駅弁を買って繰り込む。演目は「夏祭浪花鑑」(なつまつりなにわかがみ)と「素襖落」(すおうおとし)の二題。ううむ、少し薄いような気がする。もう一演目欲しいところだが、長谷川社長から御園座の奮闘を聴いていたので、名古屋の伝統文化を守るために我慢しよう。

 さて、「夏祭浪花鑑」である。主人公の団七を海老蔵が演じる。ご愛嬌は、お辰という弟分の女房を海老蔵が、二役で演じているところだ。海老蔵、根が立役なので、女に扮しても、肩幅は広さや背も高さが誤魔化せない。代表的な女形である玉三郎ならば身長をうまく盗んで、背の低い勘三郎あたりと並んでも絵になるように工夫している。残念ながら海老蔵では、それはちょいと難しい。花道に立つお辰は、明らかにでかい男が女の扮装をしているとしか見えないのだった(笑)。
 それでも、大詰の「長町裏の場」、通称泥場の臨場感は凄かった。一緒に観劇をしていた友だちは「体に力が入って疲れました」と言っていたくらいだ。泥も本水もありで、うるさいほどに鳴り響く鳴り物が、嫌がおうにも修羅場を盛り上げていく。海老蔵と市蔵の大立ち回りは見どころである。

「素襖落」は、ご案内のとおり狂言から材を取っている。その内容はこうだ。
 大名某は伯父の家に太郎冠者を使いに出す。太郎冠者は使い先の姫御寮に酒でもてなされ、だらしないほどに酔っぱらってしまう。姫御寮から餞別に素襖をいただき、それを隠し持って帰るわけだが、それをめぐっての大名某とのやりとりが笑いを誘う。
 この狂言の主人公である太郎冠者を團十郎が演ずる。1時間ほどの狂言のほとんどが團十郎の独り舞台である。大病をしておられたのがウソのように元気な舞台だった。これからも長く舞台に立っていて欲しい役者の一人である。

 さて、今回の筋書の表紙がおもしろい。通常は花や樹木の絵が表紙を飾るのだが、今回は「名古屋名所之内」という江戸末期の錦絵だった。国立国会図書館のデジタル資料にあるのでご覧あれ。
 
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1309534
 手前に津島牛頭天王社があるので、西から名古屋城方向を見た絵になっている。絵の右肩にある山は猿投山、その手前に名古屋城天守や櫓がいくつも見える。城の左手に「芝居」と書かれてあるのが見ていただけるが、これはウソ。位置的には大須方向だから画面の右手になければいけない。これは江戸の絵師の間違い。

 観劇の後は、柳橋の喫茶店でしばしのティータイム。その後、名駅に出て喉を潤す。あ〜楽しかった。