市川海老蔵特別公演

 昨日、名古屋御園座で久しぶりの歌舞伎を堪能したわい。とはいえ、御園座は厳戒態勢で、建物に入る前に消毒はもとより書類を書かされて体温を測られ、それでようやく客席に入場と相成った。席も、半分でソーシャルディスタンスがはかられており、かつシートの背には「お席での会話はご遠慮ください」なる無粋な張り紙までしてあった。さらに会場内を係員が、席での会話を慎むように促す「プラカード」のようなものを掲げて、行ったり来たりしている。だから「大向こう」も掛けられない。ここまでやらなければ、なかなか興行も打てないんでしょうね。もちろん、これは御園座に文句を言うのは筋合い。悪いのは武漢発のクソウイルスをばらまいた彼の国と、水際対策もその後の対応もまったくできなかった厚生労働省のアホ官僚と、協力を惜しむ日本医師会の連中の仕業なのである。こいつらのおかげで日本の大切な文化が壊されていくのじゃ。

 クソウイルス対策については言いたいことが山ほどあるけれど、それはまたの機会に譲る。

 

 今日は、名古屋の歌舞伎のことである。

 演目は「舞い」と「弁天娘女男白波」(べんてんむすめめおのしらなみ)だけ。舞いもあったけれど、それは刺身のつまのようなもの。出演も海老蔵以外は、一線級は、市川右團次くらいかなぁ。男女蔵、九團次、中村児太郎片岡市蔵がどのくらい観せてくれるか。

 観どころはね、なんていっても海老蔵の弁天小僧である。菊之助七之助がするんじゃないですよ。海老蔵ですぞ。

 確かに10年前に、新橋演舞場海老蔵が弁天小僧菊之助を演じてはいるが、あの頃、彼は若かった。しかし諸々の苦労を経て、海老蔵、すでに立ち役の大看板である。それが小娘をどう演じる?ある意味で期待の舞台であった。

 さあ花道に、早瀬主水の娘に化けた弁天小僧(海老蔵)と南郷力丸(右團次)が、華やかに現われる。ところがね、海老蔵のほうが背が高く、ついでに体格もいいときたもんだ。だから、振り袖娘がでかく見えて仕方がない。たとえば女形の国宝の玉三郎あたりなら、着物の中で膝を折って背を盗む。だから玉三郎勘三郎と絡んでも小さく見えるのである。

 海老ちゃん、そのあたりは立ち役だから工夫がない(笑)。そして顔立ちも、そりゃ海老蔵ですから白塗りにしても色男ですが、如何せん顔が男顔で、高い鼻筋もスーと長く通っている。これが白塗りのセンターに鎮座していては、なかなか良家のお嬢様とはチト見えぬわいなぁ。

 浜松屋の店先で、騙りがばれて弁天小僧が 正体をあらわすシーンで、だまされた番頭が「どう見てもお嬢さんだと思いのほかの大騙り者、さては太い太い」と驚く。これに対して弁天小僧が「どうで騙りに来るからにゃあ、首は細いが肝はふてえ」と決めゼリフを言った時には、「成田や!」と声は掛けられねぇけれど、つい「プッ!」と笑ってしまいましたぞ。海老蔵丈の首はふてえんだもの、喉仏もごついのがついているし(笑)。まるで「俳優祭」を観ているようでしたぞ(嬉)。

 おそらく海老蔵團十郎を襲名すれば、もう弁天小僧はやるまい。つまり、海老蔵の弁天小僧を観る最後の機会が、今回の御園座だろうと思っている。そういった意味でいいチャンスだった。めでたしめでたし。