黄落の名古屋で能

 友だちと名古屋へ出かける。名古屋宝生流の能を鑑賞するためにである。今回の出し物は「海人(あま)」、「善知鳥(うとう)」、狂言が「禰宜山伏」となっている。どれも初物ばかりなので楽しみだなぁ。

 東京の紅葉は雨だった。名古屋能楽堂のある名古屋城界隈も紅葉がいいところである。だから、市役所駅を出るときに少しばかり期待した。地下鉄出口から見える四角い空は、まさに快晴、この青地に綾錦の織りなす見事な……。
 う〜む、今年は11月に入って急に冷え込む日がなかったせいか、やや、赤味がくすんでいる。
 それでも、お堀端を西に歩けば、イチョウ並木の黄色がビルの間を抜けてくる陽光に輝いている。紅葉はいま一つだが、黄葉は鮮やかだった。歩道を埋める落ち葉を踏むカサコソという音も楽しい。ようやく黄葉狩りができたような気がする。
 
 さて、能である。「海人」は宝生流の若き女流能楽師、揖斐愛が舞う。この人、声がいい。とくにこの「海人」は、子を思う母の話なので、当たり役といえるだろう。中入ののち、龍神に姿を変えて、早舞を舞う。愛ちゃん、小柄なのだが、舞台では大きく見えるから不思議だ。男のワキやワキツレに見劣りがしない。

 狂言の「禰宜山伏」は、成長著しい野村小三郎がシテの山伏を演じる。冒頭、舞台常座で自己紹介をする。
「それがしは羽黒山の山伏……です!」
 この「です!」が笑いを誘う。友だちなんかは、つぼにはまってしまい、泣きながら笑っていた。
 この「です!」については少々説明が必要だ。当時(室町時代)語尾に「です」をつけるのは、下品なことだった。今で言い直すなら「でやんす」のようなニュアンスでやんす。だから、狂言師もことさらに、この「です!」を強調して言う。そのことを知っている人は大笑いできるし、知らなくても狂言師のしぐさで笑うことができる。友だちは、「です!」の意味を知っていたんですな。

 仕舞を二つ挟んで、「善知鳥」である。こちらは名手辰巳満次郎が舞う。名手だけに安心して観ていられる。安心し過ぎて、つい眠ってしまったのじゃ。大鼓、小鼓、笛、地謡を子守唄にして、ウトウトする善知鳥、ぜいたくな午睡となった。

 能を終えて、金山のいつもの店に寄って軽く飲んで、その後は真面目に家路についたのです(笑)。あ〜楽しかった。