凝った名前

 どうでもいいことなんだけど、テレビで成人式の話をしていたのね。沖縄が相変わらず荒れているようだけれども、そんなことは、もっとどうでもいい。
 それよりも東北の某市で今年成人を迎えるある女の子のことを紹介していて、その女の子の名前が「智深」という名前だったので驚いたという話である。「智深」とかいて「ともみ」と読ませるのだそうな。「智」は「とも」でいいし「深」は「深雪」の「み」だから「ともみ」と読めないこともない。だからいいんだけれど、ワシャにはどうしても「ちしん」と読めてしまうのだ。
 水滸伝に豪傑の中に「花和尚魯智深」という男が出てくる。「かおしょうろちしん」と読む。「花和尚」というのはあだ名である。「花の和尚様」というような生半可なあだ名ではない。「花」とは「花繍(いれずみ)」のことであり中国語の「和尚」は「クソ坊主」にニュアンスが近いだろう。つまり「いれずみ坊主」というあだ名を持ったならずものが魯智深という男なのである。
 この人、水滸伝中、重要な役どころで、北方謙三水滸伝』(集英社)では、冒頭から魯智深の描写で始まっている。
《頭ひとつ、出ていた。》
 魯智深、巨躯の人なのだ。
《しかもその頭は剃髪し、陽に焼けて赤銅色に輝いていた。》
 魯智深、ハゲである。
《口は異様に大きい。顎も張っていて、頭の鉢より大きそうだった。そして首は、顎と同じほどの太さがある。》
 要するにカバみたいな怪物と言うことだ。魯智深は、横山光輝の『水滸伝』でも怪異な暴力僧に描かれている。そういうキャラクターなんですな。魯の智深は。多分、何らかのかたちで「水滸伝」を読んだことのある人は「智深」という字を見ると怪僧の智深を思い出すのではないか。それほど水滸伝の中では大きな存在なのだ。選りに選ってそんなキャラクターと同じにしなくてもよさそうに思う。「み」に「深」を使いたかったのだろうが、素直に「美」でも良かったような気がする。思いきりよけいなお節介だが。