戸浦六宏

 昨日のBSフジで「鬼平犯科帳」を観ていた。「密偵たちの宴」という回で、大滝の五郎蔵たち密偵が、浅草のゴウツク金貸し医者の鼻を明かそうと画策するが……。
 鬼平を支える密偵たちが一堂に介する回で、密偵が次々と集まっていくところなんざぁ、水滸伝を見ているような思いにとらわれた。
 結果は五郎蔵たちが盗みを働く前に、ゴウツク医者は急ぎ働きの極悪盗人に狙われ、危機一髪で盗賊改めが御用にする。
 吉右衛門の「鬼平シリーズ」は押し並べておもしろいが、この作品もよかったなぁ。もちろん池波正太郎の原作も素敵だ。
《今戸焼の筒型の花入れに、咲きそめた桜の一枝が挿しこまれてあった。それを真中に置き、五人の男と一人の女が酒を酌みかわしている。》
 さすが名手池波、すっと引き込まれていく。この物語は、途中、台本のような書き方も挿し込まれていて、池波作品の中でも特徴的な興味深い作品となっている。文庫の12巻に入っているので、よろしかったらどうぞ。
 さて池波作品に限らず時代物には善人と悪人が登場する。「鬼平」の場合は火付け盗賊改め方や密偵が善で、畜生働きをする極悪人どもが悪である。そして物語のスパイスとして嫌な奴が出てくる。この嫌な奴をやらせたら天下一品なのが、2月14日に紹介した心優しき作家の東良美季さんのお父上の戸浦六宏氏である。今回の話では、金の亡者となった町医者を演じる。ドラマの最後で、千両箱に抱き着いて、「わしの金じゃ、わしの金じゃ」と叫びながら、通りがかりの町人に泥をぶつけられるという役どころを好演していた。
 この作品は1992年のものなので、戸浦さんが亡くなる1年前のものである。まだまだお元気そうだったので、これから60代、70代、80代と渋い演技が見られると思ったのに。