第四十四回吉例顔見世 その1

 御園座の「吉例顔見世」の昼の部に行って来た。顔ぶれが地味なのであまり期待してはいなかったのだが、あに図らんや、けっこう面白かった。
天満宮菜種御供(てんまんぐうなたねのごくう)】
 通称「時平の七笑(しへいのななわらい)」と言われる時代狂言である。舞台は平安初期、物語は、秀才菅原道真と藤原一門の長者である時平との権力闘争がテーマにあり、善人の道真が大悪人時平の姦計にはまって大宰府に左遷されるまでを見せてくれる。花道を去っていく道真を舞台から見送る時平が「道真はいかいあほうじゃなァ」と大笑いをする。ここから通称が出ている。あるいは「笑幕」とも言う。
 笑いが見せ場の舞台だから、本当に笑いが七つあるのかと思ったので、ワシャは真剣に数えましたがな。
 我當(がとう)時平が本舞台花道前で「はは」と笑ったのを皮切に「ふふふ」「あはは」「わっはっは」「かっかっか」「うっふっふ」「ガッハッハッハッハッハッハ……」と幕がしまっても笑い続けていた。都合7回、確かに笑いましたぞ。
京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)】
 坂田藤十郎が可憐な白拍子花子を演じるそうな。ワシャは基本的に女形(おやま)はたおやかであることが大前提だと思っている。だから最後の舞台まで嫋嫋とした所作を見せていた六代目歌右衛門が大好きだし、しなやかな玉三郎がいい。だからでっぷりと太った藤十郎は――雁治郎の頃から――ずっと嫌悪してきた。二重顎のお初(曽根崎心中)など観られますかいな。父である二代目雁治郎と組んでいた頃の輝くような美しさを知っているだけに「デブ雁」はいただけない。本来、白拍子花子は清姫の怨霊である。清姫は蛇の化身である。それがツチノコの化物になってしまう。
 そんな先入観で劇場入りしたのだが、前回、観た時よりも藤十郎の顎のラインがくっきりと出ているではあ〜りませんか。これなら蛇に見えなくもない。肩の辺りが重ね着でしっかりしてはいるものの、全体的に許容範囲の恰幅だった。
今回の舞台は藤十郎喜寿記念である。だからということでもないのだろうが、藤十郎が花道に現れてから1時間たっぷりを舞う舞う舞う舞う。とにかく凄い運動量だった。77歳とはとても思えないほどの体力、動きである。これでなくっちゃ、若いご婦人とチョメチョメできませんわなぁ、と感心したほどだ。
(下に続く)