昨日の午前中は知人の家に挨拶廻り。これは父親がらみの私的なこと。帰宅して、簡単に食事を済ませると、友だちと知立市に出かける。講談師の神田伯山の独演会が知立市文化会館で開催された。これは完全に趣味の世界のこと。
ワシャは道楽者なので、趣味のことを優先して書いておきたい。
ワシャは落語も好きなのだが、講談も結構聴いている。ワシャのジッチャンが講談好きで、小さい頃によくジッチャンの横でテレビの講談を観ていたからなんですね。
でもそのテレビの影響で、落語とか講談といった高座で芸に人が集まらなくなった。だって娯楽はテレビから飛び出してくるので、わざわざ寄席にまで行かなくてもよくなってしまった。
しかし、人のイマジネーションを育てるためには、テレビではなく「現場に行って生で聴く」ということが重要だと一部の賢明な人たちは気づき始め、そこで落語が持ち直した。談志、志ん朝、小三治、圓丈や「笑点」などが、その中興の祖と言ってもいいだろう。
だが、講談は厳しかった。なにしろ人材がいない。昭和47年(1972)に出版された「世界大百科事典」(平凡社)にはこうある。
《現役講釈師は30人余にすぎず、若手の台頭や新形式の読物の創作も見られるが、不振の感はまぬかれない。》
立川談志の司会で始まった「笑点」は、この時点で250回を数えている。講談界は低調だったが、落語界としては復調の兆しが見え始めた。少なくとも「笑点」については気炎を上げ続けている。「笑点」のレギュラーメンバーということで客が呼べた。
でもね、講談にはそういった出番がなく、低迷期は長く続く。おそらく、平成19年、三代目の神田松鯉(しょうり)の門を一人の若者が叩かなければ、講談はまだまだ陽の目を浴びなかったかもしれない。
松鯉が名誉会長を務める日本講談協会である。ワシャの見ている名鑑(ちょっと古い)では会員が24人いて、その内の男性が5人である。落語家にも女性がいるけれど、その割合は圧倒的に男性が多い。その状況と比較すると、昨今の講談は女性の芸と思われているのかも。
ともかく、そこに松之丞が登場する。平成24年に二つ目、令和2年に真打で「伯山」を襲名する。その後の活躍は皆さんご存じのとおり。
昨日、知立で「講談中興の祖」となる伯山の講談を四席も聴いた。ほぼ、伯山が出ずっぱりという状態だった。
開口一番で、弟子の梅之丞が「出世の春駒」を読む。
梅之丞が引っ込んでからは、伯山、伯山、伯山、伯山だった。
「小田原遺恨相撲」、「出世浄瑠璃」、「小幡小平次」、中入りを挟んで「徂徠豆腐」。なんともすごいね。四席を続けて読んでしまうとは、やはり伯山、ただものではない。
さて、落語と講談の違いについて、ちょいと博識ぶりますね(笑)。昨日、一緒にいった仲間から聞かれたんですわ。
落語は噺家、講談は講釈師。落語は武家も出てくるけれど大方は庶民、講談は庶民も出てくるけれど大方は武家、歴史上の有名人、江戸のヒーローなど。同じ寄席でやっているので、共通点も多いし、「徂徠豆腐」などは落語にも講談にもある物語である。
もともと講談は、「源平の合戦」や「太平記」といった戦記物を読んで聞かせていたのが始まりで、だから「噺す」んではなく「読む」と言う。
軍記、戦記が中心だったが、江戸中期以降に町人文化が花開いたことで、町人の社会・世相や風俗を扱う世話講談が求められるようになり、講談は変化していかざるを得なかった。落語のほうも、講談に影響を受けながら、講談調を取り入れつつ、さらに話芸としての進化を遂げていくだろう。
双方、親和性を持っているものの、落語は「落語が会話によって成り立つ芸」、講談は「伝記などを朗読する芸」と認識しておけばよろしいのではないでしょうか。
ですから、昨日も伯山は、講談の最後に「一席の読み終わりでございます」と締めていました。
言ってしまいますが、日本文化の奥深さ、きめの細かさは、他民族の文化・伝統とは隔絶したものだと確信しています。「落語」なんてものは日本にしか存在しませんし、「講談」もそう。「歌舞伎」もそうだし、「大相撲」もそうです。類似したものはあるという人もいるでしょう。だったらどこからでも類似したものをもってきて比べてご覧なさい。その内容の濃さにおいて、結びつきの強さにおいて、絶対に真似できませんから。
今回の講談のネタを例にすると、伯山は四つのネタを掛けましたが、「小田原遺恨相撲」はモロに大相撲の話。「出世浄瑠璃」の浄瑠璃は歌舞伎と融合した庶民的な娯楽。「小幡小平次」はまさに歌舞伎役者の幽霊だし、「徂徠豆腐」は、最近、立川志の輔と桂小文治の落語で聴いている。
相互にこれだけの関わり合いがあるんですね。ホント、日本文化って面白い。
伯山、9月にも愛知県にやってくる。
《神田伯山 独演会》
https://www.happiness.kota.aichi.jp/hall/event/entry-686.html
楽しみだなぁ。