冬羽織忙中閑あり落語会

 

 

 昨日、地元のお寺で落語会。出演は、レギュラーの瀧川鯉昇三遊亭兼好など。

 前座は、鯉昇の弟子のどっと鯉、キャリアは4年に満たないが、年齢は昨日で30歳になった。前座にしてはなかなか上手い。これから面白くなっていく落語家であろう。演目は「高砂や」で、そこそこ聞かせてくれた。笑いもしっかりと取っている。

 二つ目は、春風亭弁橋23歳。若い。小柄なこともあって、まだまだ子供のように見える。この8月に二つ目になったところで、練りがまだまだ足りない・・・って、年齢から言えばあたりまえだけどね。どっと鯉と続けて高座に上がったが、前座のほうが安定感があった。今後に期待しよう。

 鯉昇は「味噌蔵」でご機嫌をうかがう。しかし、この人マクラで大爆発を起こす。ワシャの近くに座っていたオバサンは「キャーキャー」大騒ぎをして笑い転げていた。鯉昇のマクラは麻薬だ。

 トリは三遊亭兼好。来月で50歳になる。落語家としてはこれから面白くなっていく年齢である。師匠は「笑点」でおなじみの三遊亭好楽だが、師匠よりいいものを持っている。まず顔がいい。面差しがどことなく古今亭志ん朝に似ている。たたずまいも雰囲気がある。そして芸達者だ。演目は「権助芝居」で、その中で狂言や歌舞伎の型をきっちりやって見せ、客を飽きさせない。五代目円楽一門にあって、これは楽しみな落語家である。

 ちょっと脇道に逸れるけど、以前にこの落語会に六代目の円楽が来たことがある。演目は五代目の十八番の「浜野矩随(はまののりゆき)」を掛けたのだが、これが練習不足なんでしょうかね。ちっとも奥行きがない。口先で語っているだけで、それも時々とちる。とてものこと先代の域に達していない。「笑点」で楽して人気を得てきたツケなんでしょうかね。

 なにしろ円楽一門の評価は低かった。例えば、筋金入りの落語ファンを自認している広瀬和生氏もその著書で《円楽党は『笑点』に圓楽、楽太郎、好楽の三人が出演してきたという以外にマスメディアに対する影響力はほとんどない。円楽党の存在感が薄いのは、一にも二にも人材が不足しているということだろう。》と、かなり厳しい。

 五代目円楽の弟子には見るべき人材はいない。でもね、孫弟子には「お!」と思わせる落語家が顕れた。兼好がそうであるし、40になったばかりだが萬橘なんかも注目に値するかもしれない。楽しみに眺めていようと思う。

 

 さて、その兼好の噺の中で、狂言と歌舞伎が取り上げられた。その狂言の口上の上手いこと、歌舞伎の見栄の板に付いたところは大したものである。このあたりは、やはり狂言や歌舞伎を見ていると、倍楽しいところなんですね。

 番頭が田舎芝居をやっていたという権助に「どんな役をやったのか?」と尋ねると「ちょうちんぶらであまっ子をやっただ」と答える。

ここで歌舞伎通は「ちょうちんぶら」の「う」と「ん」と「ら」から「忠臣蔵」に思い至らなければいけない。「ちょうちんぶらのあまっ子」から、七段目の「祇園一力茶屋」のお軽までたどり着ければ、落語がさらに笑える。

また、兼好は大向こうの話にも触れて、「ベテランの大向こうさんになりますってぇと、芝居なんか見ちゃいない。司馬遼太郎なんかを読んでいて、ここぞというところで『りたや!』とか『りこまや!』と声を掛ける」と司馬遼太郎を出してきたので、さらにワシャは高得点を与えたのでした。