志の輔独演会

 4月17日の水曜日に「穂の国とよはし芸術劇場」で立川志の輔の独演会があった。仲間が尽力してくれてようやく4枚のチケットをゲット。いそいそと出かけましたぞ。

 開口一番は志の輔8番弟子の志の大が、前座話の「金明竹」でご機嫌をうかがう。長身のすらりとした優男で、羽織を着て高座に上がったところを見れば、で二つ目になったようだ。ぱっと見は落語家の風貌ではない。顔にも「落語家でござい」系の特徴がなく、野球選手とかサッカー選手に居そうな体育会系の若者といった感じだろうか。

 さて「金明竹」、道具屋の主人と甥の与太郎との掛け合いで始まって、その後、主人外出中に、上方の取引先から商人がやってきて、関西弁、早口で「長口上」を捲し立てるというもので、この「長口上」が聴きどころとなってはいる。志の大さんの舌はよく回り、早口も緩急をつけて噛みもせずしっかりと高座を務めた。

 ただ1点、指摘をすると「道具屋である」というところを冒頭でしっかりと客に伝えておかなければいけない。これは興津要編『古典落語』(講談社文庫)でもそうなっているので、志の大さんを責めるのもなんだけど、前半部分で与太郎の叔父さんの店が何の店なのか・・・がよく見えない。

 だからのっけに「道具屋」ということを強調しておくこと。さらに、途中でも「道具屋」を匂わせておけば、クライマックスの「長口上」、「中橋の加賀屋佐吉から参じましたん。へえ、先度、仲買の弥一が取り次ぎました道具七品のうち、祐乗、光乗、宗乗三作の三ところもの、ならびに備前長船の則光・・・」が活きてくるのである。

 中入り前に志の輔が登場する。古典落語の「試し酒」なんだけれども、志の輔師匠の凄いのは、そのマクラである。能登半島地震のこと、ホタルイカの豊漁の話、その他にも政局、国際情勢などの時事ネタをフルに盛り込んだ雑談のようなまくらは会場が大爆笑となった。これほどマクラで受ける噺家もいねえだろう。

「試し酒」は大酒呑みの田舎者と大店の主のやりとりが面白い。結局、田舎者が5升の酒をペロリと飲みほして、小遣いをたんまり貰うという酒呑噺。

 中入り後、6番弟子の志の太郎が「宮戸川」を掛ける。この人も、落語家というよりも品のいいホストのような顔立ちでスラリとしている。志の輔一門、今回「笑点」メンバーになった晴の輔もそうなんだけど、歪な顔立ちがいない。歪をバカにしているんじゃないんですよ。瀧川鯉昇師匠とか柳家権太楼師匠とか個性的な顔立ちは素敵で、顔だけで笑いを取れるという落語家向きの顔のことを言っている。そういう意味で、整っている一門だと思う。

 さて、噺である。「宮戸川」という演目なんだけど、「宮戸川」は出てこない。日本橋小網町の質屋のせがれの半七と近所の船宿の娘お花がたまたま締め出され、2人して霊岸島の半七の叔父のところに転がり込む。そこの2階に2人っきり、突然の雨、雷で「きゃあ!」と叫ぶお花ちゃん。さて2人は・・・という噺。

 なんだけど、さっきも言ったとおり「宮戸川」は出てこない。後半の噺で出てくるんだけど、この噺は昨今、前半部分だけで終わることが多い。

広重の「名所江戸百景」の60番目に出てくる川なんだけど、要は隅田川を浅草辺りでは「宮戸川」と呼称していた。後半ここが事件の舞台になるのだが、そこはけっこうシリアスな話になってしまうので、客受けする前半の噺に落ちついているんでしょうね。

そしてトリ。志の輔師匠の登場だ。

 ネタは志の輔新作落語で「メルシーひな祭り」である。

 物語は成田空港近くのひなびた商店街。その商店街会長に外務省から電話が入る。

「フランス大使の婦人と娘がひな人形にご執心で、帰国直前なのだが、ひな人形を見たいと言われる。調べてみるとあなたの商店街にひな人形を造っている職人がいるので、そこを見学させてほしい」

 と申し出があった。

 外務省直々の依頼ということで、会長は大騒ぎをして職人にも了解をとって、さて一行をお迎えするという段になった。

 まずは外務省の人間が工房に入って驚愕する。ななんと、そこはひな人形の工房ではあるがカシラ師の工房だから、首から上しかあるわけがない。

「これじゃぁ鈴ヶ森じゃねえか」

 そういう反応も出るのだが、若い人たちに鈴ヶ森は理解できないかもね。「鈴ヶ森」って江戸時代の刑場で、首がいっぱい並んでいたということを言っている。

「これは夫人と娘には見せられない」

 ということから大騒ぎになっていくという噺。

 

 おもしろかったですよ。そりゃ志の輔ですから。午後6時半開演ですから、通常であれば前半1時間、中入り15分、後半1時間で午後8時45分には幕となる。施設の閉館が午後9時だからそんな段取りだろう。

 ところが打出しが鳴ったのは午後9時30分、アンコールも掛ったので、かなりの40分以上の延長となった。それくらい12回目をかざる豊橋の席に気合が入っていたのだろう。

 トリの新作落語に力が入ったが、ちょっと志の輔の味が出ていなかったというか、表現に雑な部分がいくつか見受けられた。ご本人も過去11回、22席をつとめてきて、客に喜んでもらうために、何を噺そうかいつも悩んでいると言っていた。

「古典、新作の順か、新作、古典の順がいいか?」

 まあワシャ的には「古典、古典」でもいいんだけどね(笑)。さらに言えば「マクラ」がいいので「マクラ、マクラ」でもよかった。

 どちらにしても志の輔なのでいいに決まっている。頂点だからこその批評もあろうが、そういったことを気にせずに楽しい落語をやってくだされ。