安城落語会

 夕べ、地元で落語会。真打の出演は瀧川鯉昇、三遊亭萬橘(まんきつ)
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 二つ目が桂鷹治、前座が瀧川どっと鯉、色物が紙切りの林家花。午後6時半に始まって午後9時半までたっぷりと3時間の落語会だった。先だっての喬太郎の落語会が4人で80分だった。それと比べて100分も長いのである。聴きごたえという意味ではこっちに軍配があがる。
 どっと鯉は「たらちね」であった。長屋の八五郎のところに異様に言葉の丁寧なおかみさんが嫁いでくる。「あ〜らわがきみ、あ〜らわがきみ」「しらげのありかはいずれなるや?」「そのほうが携えたる鮮荷(せんか)のうち一文字草(ひともじぐさ)、一束価何銭文(ひとつかあたいなんせんもん)なりや?」というような調子で、べらんめいの八五郎と妙ちきりんなやりとりを繰り広げる。どっと鯉、まだ入門2年目なのだが、なかなか達者だ。
 鷹治は、岡崎出身である。だからまずは地元ネタで客をくすぐる。岐阜大学法学部を卒業しているのだが、法律家になるのならないのの下りが少し嫌味で、学歴自慢のところをさらりとやっておけばよかった。落語は「悋気の独楽」という噺。その名のとおり悋気ネタで、旦那と奥様の間で、定吉があたふたするというもの。昨年聴いた時よりも腕を上げていた。また、年明けに三河にやってくるので、その時はさらにうまくなっているといいね。
 鯉昇は、甚五郎噺から「ねずみ」でご機嫌をうかがう。これは大きな旅籠を乗っ取られた親子が甚五郎の尽力でまた繁盛する旅籠を再建しましたとさ、という勧善懲悪のすっきりとした噺。鯉昇はおもしろいのだが、最後の下げにつながる重要なシーンで、甚五郎が江戸から連れてきた師匠の倅の政五郎がしっかりと描き切れていなかった。噺を知っている客は「政五郎なんだな」とイメージができるが、初めて聴く人には「旅籠の子供が甚五郎と話しているのでは?」と思わせてしまう。そこのところをきっちりと描いておけばさらによかった。
 林家花は紙切りである。紙切りだけでもけっこう楽しめたが、最後にサービスで紙切りとは脈絡のない「男踊り」を披露した。これはよくない。切り紙だけで勝負をすればいいのだ。それにこのあたりには芸妓文化がまだまだ残っており、下手な舞踊ではご機嫌はうかがえない。客の目が肥えているのだ。紙切りがよかっただけに画竜点睛を欠いた。
 そしてトリ。萬橘である。この人、愛知県豊川市の出身である。だから鷹治と同様に地元三河を題材にマクラを作っていく。最初はね、なんだか個性的な黒縁メガネをかけているので、そんなんで古典ができるのか?と心配になった。癖が強い噺し方で、どちらかと言うと耳障りに感じる。芸風が若干ではあるが三遊亭円丈にも似たところがあるなぁ……などと思っていたら、途中でメガネを外してからがエンジン全開となった。豊橋駅での母親との再会の小噺などは会場が揺れるほどの笑いを取った。ある意味、異次元の笑いと言ってもいい。マクラでぐいぐい引き込まれながら、古典の「代わり目」につなげていくところも滑らかで、これはおもしろい落語家を見つけたわい。萬橘、またどこかで聴きたいものだ。
 ハネ太鼓が鳴った時、午後9時30分をまわっていた。早いときには8時半過ぎに終わることもあるのだが、昨日はたっぷりと堪能できた。
 その後、JR駅前の居酒屋で反省会。あ〜楽しかった。