傑作たち

 先週の木曜日に名古屋で落語を聴いてきたことは2日前に書いた。これが知る人ぞ知るSWA(創作話芸協会)の落語会だったんですよ。SWAというのは、昇太、喬太郎、彦いち、白鳥と講談師の神田山陽の5人で、2003年に旗揚げをした創作話芸で好きなことをやる会なんですね。そのSWAが十数年のキャリアを積んだ高座が木曜日だったんだけど、その十数年の変貌を知りたくて、書庫の「落語」の棚を漁る。確か、SWAの特集をした雑誌があったはずなんですよ。棚といっても10段もあるから けっこう大変だ。おっと、あったあった、ありましたぞ。

『落語ファン倶楽部』(白夜書房

 平成17年の発刊である。だからまだ談志師匠も円楽師匠もご健在です。木曜日に見た4人も、10数年前はお若かったんですね(笑)。

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 この雑誌に、落語ファンを自認する有名人たちが「歴代の落語ベスト五席」を選んでいるんだが、さすがSWAである。志ん生圓生志ん朝、談志、米朝などの名人が居並ぶなかに、ちょこちょこと顔を出してくる。昇太はお見事で12席も玄人筋から選ばれた。白鳥が5席、喬太郎が3席、彦いちが1席である。意外に15年前は喬太郎の人気がないんですね。それでも若手で大健闘と言っていい。

 ワシャの好きな志の輔はというと、11席が選ばれていて、やはりこの頃から評価が高かったようだ。

 

 その志の輔がこの雑誌の中で師匠の談志と対談している。これがおもしろい。

落語立川流家元立川談志に聞く」というインタビュー記事で、副題に「イリュージョン、時々シラス五匹・・・」とある。談志を知らない人にはなんのことだか解からないと思いますが・・・。

「イリュージョン」というのは直訳すれば「幻想、幻覚、錯覚」ですね。これを談志流に言うと、人間には「赤ん坊」の時と「老人期」という人生の両極端においてその意識が混濁しているような状態がある。この「混濁」を意図して表現することを「イリュージョン」と言っている。あるいは「非常識のその先」と解釈する人もいる。笑いには非常識が必要だが、談志はそのまた先まで進んでいこうと考えて「イリュージョン」と言っているのだと思う。

「時々シラス五匹」は、対談の中で語られているわけなんだけど、ここは志の輔の発言を引きますね。

《師匠ほどお金のある人が、バス代や郵便貯金に預ける十円のことや、ラップに包んで冷蔵庫に入れといたシラス五匹のことで夜中に電話してくるっていうのは、カルチャーショックでした。》

 これも解説が必要だと思うが、落語に『替り目』という噺があって、酔っぱらいの亭主が帰ってきて、カミさんに酒を飲ませろ、つまみを出せと騒ぐ。カミさんは「何にもないよ」というところで「納豆が五粒残ってたろう」と亭主が絡むところがある。この噺を談志は追体験しようとしている。小さなシラス五匹を後生大事に冷蔵庫に保存して、何かの時にはそのシラス五匹で一杯飲もうというわけだ。弟子たちに「実践」ということを自ら示している。

 この対談の中で、1枚の色紙が談志から志の輔に贈られた。談志は達筆ですね。この色紙を見せられて、志の輔は腰を抜かしたそうな。

志の輔 立川流の傑作 立川談志

 そりゃ志の輔が感激のあまりへたり込むのも理解できる。

 

 今、落語の黄金期と言っていい。