偉そうに

 昨日の朝日新聞1面の「折々のことば」で違和感を持った。

《定年後が退屈になる原因の一つは、「失敗」する機会がないことだ。》

 これは愛知県出身の英文学者の外山滋比古『お金の整理学』(小学館新書)にある言葉だ。ワシャは外山氏の本は10冊くらい持っている。もちろんこの本もね。

「折々のことば」を2890回も続けている鷲田清一氏(哲学者)は、外山氏の《「失敗」があるから面白い》と題されたエッセイから冒頭の文を引用している。その上でエッセイをまとめて「定年で仕事から離れてからも、リスクのある仕事をし、失敗をすることで、人生の面白味は増すから人生のテーマを改めて設定するのがいいよ」と、薦めているわけだ。

「そんな感じだったっけ?」と思ったので、すぐに新書を手に取った。

 外山氏はこう言っている。

「定年後が退屈になる原因の一つは、仕事の失敗というものから解放されるので、緊張感がなくなり老化現象が加速する。自宅や図書館、公園などで一日中のんびり過ごしている老後ではダメだ」

「やりたくもない仕事を選ぶのはやめたほうがいい。起業したり事業主になったりして、自分で主体的に判断する裁量をふやしたほうが、面白みは増す。そして、失敗したときの悔しさもより一層、大きくなる、それでいいのだ」

 大雑把にまとめるとこんな感じでしょうかね。

 この本の初版が平成30年で、外山氏が95歳の時のエッセイである。95歳に、今の「定年後のリアル」が考えられるのかなぁ?というのが率直な思いだった。さらに、今年74歳の鷲田氏にしても、研究者だから定年後も、名誉教授とかの肩書で、いろいろなオファーのくる特別な職業だ。まず、通常のサラリーマンの定年とはそもそも環境が違う。上の方に座って安定しておられる方々に「定年後は退屈するから失敗しろ」と言われても、簡単には頷けませんぞ。

 

 それよりも元サラリーマンの作家である勢古浩爾(せここうじ)さんの『定年後のリアル』(草思社)のほうが役に立つ。例えば・・・

《「豊かなセカンドライフ」といわれても、急に新しい世界が開けるわけではない。定年退職後や老後はこれまでの人生の延長である。》

 そりゃそうだ。さらにこう言っている。

《四十年近く仕事もしてきた。これで社会的な義務も責任も一応は果たしたはずである。もうこれで個人的にも社会的にも義務や責任から解放された、と考えていいのではないか。あとはなにをするもしないも、自分の自由である。どの方向に歩き出そうと、あるいは日向ぼっこしようと、あなたの自由である。》

 勢古さんは、前述の2人のように研究者でも学者でもない。明治大学を卒業後、ご本人曰く「零細企業」の洋書輸入会社に34年間務め、定年直前に退職している。著書は何冊も出しておられ、ワシャは20冊を書棚に挿してあるが、そのどれもが脱力系で心に響いてくる。立ち位置が我々と同じ市井の人の目線なので、内容がとても解りやすい。

 

 肩書をいくつも並べて老後を送っているような学者風情が偉そうに、人それぞれ千差万別ある退職後を独断して偉そうにモノを言ってんじゃないぞ。