外山滋比古さん

 英文学者の外山滋比古さんが亡くなられた。

外山滋比古さん死去…96歳、「思考の整理学」がベストセラーの英文学者》

https://news.yahoo.co.jp/pickup/6367657

 この人の書いたものはとても読みやすかった。書棚にも何冊か挿してあるが、『自分の頭で考える』(中央公論新社)はおもしろかった。おもしろくて2冊買ってしまった。

《人間がコンピューターに勝てるのは、選択的忘却である》

《だいたい記憶は画一的です。何でも同じように記憶しようとしますが、忘れるのはずっと個人的です。めいめいの好み、興味、利害損失、気分のからまった忘却スクリーンの間を記憶が通過します。関心に合ったものは、スクリーンのネットにかかって残り、あとは忘却にまわされます。》

「忘却」は外山さんの重要なテーマであり、この本以外にも『忘却の力』(みすず書房)、『忘却の生理学』(筑摩書房)なども、「忘却」ばかりのワルシャワにとってとてもためになった。

 またこんなことも言われている。

《問題のないことは幸福であるとされますが、頭を使うことがすくなく、エクササイズが不足すると老化を早めます。》

 このフレーズは96歳まで活発な執筆活動を続けられた外山さんの言なので説得力がある。

《親孝行な子をもっている人より、心配な子をもっている人の方が、頭を使うことが多く、ボケたりすることも少ないのは、エクササイズの多寡によるように思われます。》

 確かにワシャの両親なんか、息子がアホなのでボケボケしていられないらしく、毎日、せわしなく動いたりパソコンをたたいたりしている。ううむ、ワシャは親孝行な息子だったのじゃ。

《五体をまんべんなくはたらかせ、全身エクササイズを生活習慣の基本とすれば、そんなに容易に活力が失われることはないでしょう。動くものを動かさないのがいけないのです。》

 おっしゃるとおり!

 子育てについても先生は至言を残されている。

《親によって育てられることが、子にとってベストであるかどうか。こどもの一生を見通した上でないとはっきりしたことは言えませんが、どうも生みの親より、別な育ての親の方が結果がよいことが多いのは、無視できないようです。》

 残念ながらワシャには育ての親がいない。息子のことを心配するばかりの、どちらかというと子育ての上手くない実の親だけだった。だからワシャは高校1年から働き始めて、人に金をもらってこき使われるという生活をしてきた。就職する前に60以上の職種を体験している。それがワシャの人生の糧になったかどうかは、棺桶の蓋の閉まるときにか判らないが、以下の先生の言葉になにかしらの啓示のようなものを感じた。

《生活が貧しいというのは、成長するこどもに、多くのことを教えるようです。貧しきことは幸いなり、かどうかはわかりませんが、悪いことばかりではありません。》

《平和で幸福な家庭で何不自由なく育った人には、人間をはかる物差しがないのが普通で、日本人のきわめて多くがその部類に属します。相手をしっかり見据える眼力がなければ、つまらない詐欺にもかかります。》

 おおかたの政治家、官僚などは大家のお坊ちゃまか、小学生のころから一番しかとったことのない神童である。苦労なんてことは微塵もしたことはないだろう。真っ直ぐに敷かれたレールをのほほんと進んできたリーダーなんてまったく魅力がない。どこぞの評論家が言っていたが、お公家様では危機に際して何もできない。

 外山先生の訃報にふれて、そんなことを考えたのだった。