池田屋、バー、先斗町

 夜は池田屋で反省会。一応、席は仕切ってあって隣の客と顔を合わせることはない。しかし仕切りは立ち上がり2m程度しかなく、その上は開口しているからアッパッパー。このため隣室の声がなんとなく伝わってくる。そんな仕切られた部屋が10くらいあり、全体にざわついている感があるけれど、まぁ居酒屋だからそんなものでしょう。その中でも、ワシャらのメンバーは声がでかい。とくにパラピーくんはお酒は弱いんだけど、京都ということもあっていつもよりやや多めのビールを飲んでいる。そのせいかどうかわからないが、テンションが高く、大きな声で話し、大笑いを繰り返す。

「もうちょっと静かに」

と、たしなめると、数分は治まるんだけど、またすぐ「ガハハハ!」とフロアじゅうに聞こえそうな爆笑が飛び出す。旅の恥はかき捨てということもありますから、後半は放任しておきました。

 池田屋で飲み食い談笑し、さて次の店ということになった。お店の名前は言えませんが、河原三条から北へちょいと歩いたところにある気の利いたシャレオツなバーにゆく。店構えは、京都というよりも六本木とか渋谷とか、都会の雰囲気を持っている。

 しかし、京都通のメンバーが、店のマスターとも昵懇ということで、酔いの勢いも手伝って「ごめんやっしゃ」ということに。

 店内はバーですからね、池田屋とはちゃいまっせ。どちらかというとドレスアップした女性を伴ってカクテルを楽しむ、そんな高級感が漂う。おそらく京都通のメンバー以外のオッサンたちには縁のない場所だろう。

「でも、入ってしまったらこっちのものさ」とばかりにパラピーくんは動じない。大して飲めないのに、カクテルメニューを見ている。

 おおお、そのメニューがすごい。そこには新選組の幹部の名前が並んでいた。「近藤勇」、「土方歳三」、「沖田総司」、「永倉新八」などなど隊士名がずらっと書いてある。どれがどんなカクテルなのか、飲み物なのかまったっく分からないが、新選組ツアーを実施中である。これも勢いで注文しましたがな。

 ワシャは「土方歳三」一本で、これを3杯いただきました。あとで「テキーラ」だと聞いて、急にフラフラしてきましたぞ。パラピーくんにちょっとお裾分けしたんですが、「おいしいおいしい」と元気よく飲んでいる。いつもは酒に弱いくせに、京都の効果というのはこれほどまで強く出るものなのか。

 とても親切に対応してくれたマスターにお礼をいって店を出た。

「さあホテルに帰りましょう」と、促すのだが、「夜の先斗町が見たい」と、やっぱりパラピーくんが言い出した。目の前に地下鉄の「京都市役所前駅」があるのに先斗町なら2駅歩くことになる。

 でも歩いたんですよ。そして夜でも外国人であふれかえる先斗町を三条から四条まで。

 前回、『燃えよ剣』の、先斗町の一文を引いた。確かに一部はそのとおりだった。

「狭い。芝居の花道ほどの両側に、茶屋の掛行燈が京格子を淡く照らし、はるか北にむかってならんで、むこう三条通の闇に融けている」

燃えよ剣』の先斗町に人影はあまり見えない。だが現代のそこには数珠つなぎになった外国人があふれていた。路を淡く照らす掛行燈は「むこう四条通のネオンにまぎれ融けている」という感じですね。

 ワシャはイマジネーションだけは人一倍強いので、景色から人もネオンも排除して、こんな想像をする。

《掛行燈の灯が点々と先斗町の小路を照らしている。にわかの雨が走るように石畳をぬらしていく。茶屋ののれんを分けて、紅い蛇の目傘が伸び、はらりと開いた。傘をささえる細いかいなは、ゆき鈴という舞妓だった。ゆき鈴は丁寧にのれんのむこうにお辞儀をすると、ぽくりぽくりと小路を歩きはじめる。》

 いいなぁ、京都。

 

(京都人の密かな味 その4)