歌舞伎とLGBT法

 昨日、御園座へ行ってきた。「ワルシャワは遊びまわっている」なんて思わないでくだされ。歌舞伎はワシャの数少ない趣味なんですから(笑)。

片岡仁左衛門 坂東玉三郎 錦秋特別公演」と銘打たれた久方ぶりの「孝玉コンビ」の復活だった。演目は「東海道四谷怪談」と「神田祭」である。「四谷怪談」は錦秋かなぁと思いながらも、玉三郎のお岩、仁左衛門伊右衛門を堪能した。後半で背筋が寒くなった。怖いからではなく、冷房の効きすぎでした。だからジャケットを羽織ったのである。それにしても仁左衛門の色悪ぶりはさすがだった。黒紋付の着流しに白塗りにきりりとした眉と目が光っている。

 中入り後の「神田祭」は舞台が一変した。暗いくら~い伊右衛門宅から華やかな神田祭の江戸の町となる。ここで鳶頭(仁左衛門)と芸者(玉三郎)の粋なやり取りがおもしろい。それにしても玉三郎の色っぽさといったらたまりませんなぁ。

 なにしろ暗くて華やかな御園座だったが、久しぶりの歌舞伎を堪能したのでありました。歌舞伎の後は、御園座裏の居酒屋で反省会。ここで「もずくの天ぷら」なる者がメニューにあったのでたのんでみたら、これが美味い!これでルービーをいただいたのでした。めでたしめでたし。

 

 さて、帰りのJRの中で考えたことである。

性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」というクソ法が6月16日にあっという間に成立し、1週間後に公布され施行にいたっている。以後、「LGBT理解増進法」と略すが、この第1条にこう書かれている。

性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解が必ずしも十分でない現状に鑑み、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の役割等を明らかにするとともに、基本計画の策定その他の必要な事項を定めることにより、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性を受け入れる精神を涵養し、もって性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に寛容な社会の実現に資すること」

 おいおい、冒頭の「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解が必ずしも十分でない現状」って何と比較して言っているのかニャ?

 日本国民ほどこのことを理解している国民はあるまい。昨日の歌舞伎だって、玉三郎は男だけれど、その美しさたるや生半可な女性では太刀打ちできないほど女性だ。歌舞伎では女形という男性が存在し、その女形に男性ファンは熱狂している。ワシャは女性が好きな男で、クロスモーダル現象で酒の味が変わるほど女性がいい。

 そんな普通の男なんだが、中村米吉

https://news.yahoo.co.jp/articles/fcdeb3a8749a2913629c55f9898c153d45464176

の姫が舞台に現れると、「萬屋!」と思わず声を掛けるほどうれしくなる。昨日は米吉ちゃんは出ていなかったが、もちろん玉三郎が出てくれば「大和屋!」と声を掛けた。

 昨日、御園座にいたお客さんは特殊な人たちなのだろうか?いやいや、何度見渡しても、普通の人たちですぞ。彼ら彼女らは普通に女形を受け入れていて、性的指向性自認の多様性なんかとっくの昔から理解している。日本人の性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解は、世界のトップと言っていい。

 舞台から降りた玉三郎丈はやはり物腰の柔らかい人で、言葉遣いも上品だ。男性のような雰囲気もあり、女性的な仕草も身につけている。でもね、だからといって玉三郎丈に「あなたの性自認は?」と訊くのは野暮天だろう。玉三郎丈のすべてを受け入れてこその歌舞伎ファンなのだから。

 このクソ法は、野暮天の極みでゲス。

 そんな下世話なことを、帰路、車窓をよぎる夜景を見ながら考えてしまった。