清沢満之

 昨日、名古屋の某所にて久しぶりの呉智英塾があった。こればかりは何ものにも代えがたく、諸々の所用をキャンセルして西三河からいそいそと出かけた。この気持ちは呉智英という知性に触れた人たちには共通するものなのだろう。東京方面、あるいは関西から、この酷暑の中、遠路多数の弟子が集結した。

 

 特別講義のテーマは「人間の有限性について」。これがちょいと難しかった。テキストとして呉先生は「クライテリオン」の5月号に寄稿された「表現の自由とは何か」を示され、それに沿って「真善美」という言葉について説明をされた。「真善美」が

「認識上の真」「倫理上の善」「審美上の美」という理想を実現した状態で、それぞれが独立しながらも連関しあった統一的な価値としてみられることもある・・・。

 そういうことをお話になったと思うが、なにしろ会場のマイク設備が貧弱で、演壇から一番遠い最後尾に座っていたものだから、先生の言葉が聞き取りにくく、前半の講義は、やや未消化に終わってしまった。先生、不出来な弟子ですいません(泣)。

 それでもね、前半の後段で出てきた本居宣長の話には耳をそばだてた。このところワシャは小津安二郎に入り込んでいるんですね。で、本居宣長が小津は同じ伊勢松坂の人間であり、縁戚関係にもあたることから、「小津は本居宣長に影響を受けているのではないか?」と思っていた。

 そこを呉先生が、本居宣長の芸術論・表現論をピシャリと示してくれたので、大きく頷いたものである。

 前半の講義については、スタッフのMさんも「ちょっと難しかった」と言ってくれたので、ワシャだけではなかったようでホッとした。

 

 そして後半。テーマは「清沢満之」。これは、呉先生が急遽差し込んだものであった。たまたま読まれた8月6日の産経新聞のオピニオン欄の《司馬少年に蒔かれた「たね」》という論説で、「司馬遼太郎という作家は歴史の間(あわい)に人を見いだす名人だった」という書き出しで「清沢満之」のことに触れていたからであった。

 これはワシャ的にはごちそうが並んだ。司馬遼太郎は「司馬教信者」と言われるくらい傾倒しているし、清沢満之碧海郡の南端大浜に足跡を残している郷土に輝く人なのだ。

 愛知県が出している「愛知に輝く人々」というシリーズ本が下のURL。

https://www.kosho.or.jp/products/detail.php?product_id=335576634

 このシリーズの第一巻に、川合玉堂新美南吉、渡邉崋山などとともに清沢満之も載っている。結構、地元では有名な人なんですね。

 だから居ても立ってもいられず、ついマイクが聞き取りにくいことにクレームをつけてしまった。スタッフの皆さんごめんちゃい。

 後半は、先生が差し込んだネタということもあって、先生自身も熱が入り、予定時間を20分もオーバーするものとなった。

 前半では、質問はスタッフから出されたもの以外はなかったのだが、後半は、ワシャも司馬と清沢ということで満を持していたのだが、次から次へと聴講者から質問が出て、結局、ワシャのマヌケな質問はできなかったのだ(残念)。

 こちらからの存在感は示せなかったものの、講義中、突然「ワルシャワさん、どこにいるの」と声が掛った。まったくワシャの出る幕ではなかったので、鳩豆状態で「はひ~」と恐る恐る手を上げると、「あなた以前にこんなことを僕に言っていたよね・・・」と、先生が質問を浴びせてくるではあ~りませんか。ワシャには何を聞かれているのかさっぱり解らない。呆然と突っ立っていると、後ろの席にいたパセリ君が立ち上がり「そのことについては・・・」と回答をしたのであった。

 以前に、刈谷浄土真宗関係者について、パセリ君が先生に話をしたことがあって、その確認をしたかったようだ。先生にしてみれば三河から来ているワルシャワもパセリも区別がつかないから、とりあえずワシャに問いかけたということで、ワシャ的には、不意を突かれてびっくりしたのであった。

 講義の内容については、もう少し咀嚼をして消化を進めてからにしたい。ただ、並の郷土の偉人としてしか認識していなかった清沢満之が、呉先生の「歎異抄の再発見、旧来の考え方からキリスト教に近いものにしたのが満之ではないか」、司馬遼太郎の「歎異抄をわれわれに受け渡した人は親鸞というよりも清沢満之で、しかも哲学になって受け渡されている」などの言葉に触発され、ワシャの中での満之の光彩が増したことだけは言える。

歎異抄』を含めて清沢満之浄土真宗などの再勉強をする気になりましたぞ。いつまで続くかは判らないけど(笑)。

 

司馬遼太郎『歴史と小説』(河出書房新社)P118「清沢満之のこと」

司馬遼太郎街道をゆく16 叡山の諸道』(朝日文芸文庫)P205、『17 島原・天草の諸道』P217、『18 越前の諸道』P134