パーフェクト・デイズ

 今朝の「天声人語」は、まあまあ読めた。第76回カンヌ国際映画祭を受けてのコラムで、時事ネタになかなか反応しない「天声人語」としては、ポテンヒットくらいにはなっている(笑)。

 

 書き出しはこうだ。

《1992年の秋、俳優の笠智衆さんの自宅へうかがう機会があった。監督・小津安二郎との思い出を穏やかに語ったあと、居間に飾られた絵を指さした。》

笠智衆」「小津安二郎」と並んでいれば、小津ファンのワルシャワとしては読まないわけにはいかない。

「居間に飾られた絵」がドイツの映画監督ビム・ベンダースから贈られたものということで、今回のカンヌ映画祭につなげていく。ここまでにけっこう重要な情報が書いてあって、まず、《ベンダース監督にとって、小津は「映画の聖なる宝」と呼ぶほどの存在》であること。というか、洋の東西を問わず、小津安二郎という映画監督は映画監督たちにとっては目指すべき最高の峰と言っていい。

 そしてベンダース監督が自作の主役を演じた役所広司さんに対して「私の笠智衆がここにいます」と最高の賛辞を贈ったという情報も新鮮だった。

 ここまでの「天声人語」は良かったのだが、ここらでヒットが減速をはじめた。昨年の韓国人俳優の受賞を強引に持ってきて《NHKの取材で「アジア人同士で力を合わせることで、アジア映画が力強くなっていくのでは」と話した》という一文が入っているが、これに主語がない。だから字面から、役所さんが言ったのか、誰が言ったのか判らないのだ。そんな下手な文章のことはどうでもいいが、ヒットがあわや捕球されそうになる主要因は、韓国映画と日本映画を並列して論じている点にある。

 いいですか、ここまで笠智衆とベンダース監督の縁から小津安二郎にいって、カンヌに持ってきた。あくまで日本映画の最高峰であり、世界の映画の至宝である小津安二郎韓国映画を並べてどうする?無理にアジアにするんじゃねえぞ、天性チ○コ。

 韓国映画が台頭してくるずいぶん前から小津安二郎溝口健二黒澤明などの世界の映画人があこがれる監督はあまた存在した。それに安っぽい作りながら、香港カンフー映画は世界を席巻したことを忘れたのかニャ。

 それでもこのコラムが適時打になったのは、このフレーズがあったからだ。

 役所さんが《演じたのは、澁谷の公衆トイレ清掃員だ。小津の『東京物語』で笠さんが演じた主人公と同じ姓を持つ》平山という老人である。

 あらそうなの、ベンダース監督の小津へのリスペクトがよく見える。ネットで調べたけれど、役所さん演じる清掃員は「平山」だった。あらうれしや。そこには苗字しか記載がないが、できれば『東京物語』の主人公「平山周吉」にして欲しいなぁ。

 同姓とはいえ、小津の「平山周平」は昭和28年で70歳の老人という設定だった。令和の「平山」を演じる役所さんの実年齢が67歳、『パーフェクト・デイズ』

https://eiga.com/news/20230516/9/

での設定が分からないが、妹役の麻生祐未さんの実年齢が59歳なので、そのあたりから類推して「平山」は壮年の60代半ばだと考える。

 ここらにどの程度の類似と違和があるのか、それを確認するのも楽しみだ。

 

 役所広司さん、もともと色男だけど、またいい感じに年を重ねられて、うらやましい限りですわ。『パーフェクト・デイズ』、必ず観ます。