夢の忘れもの

 昨日、従兄の葬儀があった。ゴルフの好きな人で、亡くなった日も友人とゴルフに行っていた。帰宅して風呂に入って、その後、座敷で好きな酒を飲み、煙草を燻らせていた。まどろんでいたら昼間の疲れが出たのであろう。座卓の横でゴロリと横になったそうだ。気持ちよく寝息を立てていて、家人が気が付いた時には、もう目を覚まさなかったという。

 享年75歳だったが、これほどあっさりした死に方もあるまい。誰にも迷惑をかけずに、「ちょっと出掛けてくるわ」てな感じで、逝ってしまった。だから葬儀の列席者も、呆気にとられたような雰囲気に包まれていた。

 ゴルフをに一緒に楽しんだメンバーや、葬儀の日に予定されていた同窓会の仲間も、「え?」「どうしたの?」という反応がほとんどだった。

 

 ワシャ的には、ワシャが物心つくころには従兄は大人で、それ以来、親戚付き合いをしていたから、ドラマにはならないまでも、いろいろな思い出はあるわけでね、読経を聞きながら、そんな事どもを思い返していた。

 

 葬儀自体は粛々と進行し、導師が退席し、その後、簡単な喪主挨拶があった。あとは、最後の対面をしながら献花をして棺を飾るための出棺の儀を行う。

 葬儀屋が棺を移動させたり、手向ける花を切り出したり、その準備に少しばかり時間を要する。それをつなげたのが、女性司会者だった。

「故人〇〇様は、ゴルフがお好きで~~、お酒がお好きで~~、おタバコが好きで~~地元ではボランティア活動をなされ~~息子様とは、こんなエピソードがあり~~、娘様とは、これこれこういった会話をされていました~~」

 おそらく喪主が同じ話をすれば、感慨深く聴くこともできたのだろうが、単なる葬儀屋の進行係が、従兄のことを感情込めて語っても、空々しいいばかりで、ワシャが死んだときには、この他人によるナレーションだけは止めようと思った。

 

 それでもそれ以外はいい葬儀だった。その余韻を引きずりながら帰宅し、その夜、何気なくテレビを入れると、NHKBSのドラマで浅田次郎の「おもかげ」をやっていた。中村雅俊主演で、主人公の正一が退職した日に地下鉄で倒れて、そのまま病因に担ぎ込まれ、そこから不思議なことが起きて、正一が自分の来し方を振り返っていく・・・というもの。

 従兄と中村雅俊の年齢が近いこともあり、双方とも突然死(ドラマのほうでは死亡は特定しない終わり方)だったこともあって、ラストではジンと来てしまった。

 

 そのドラマに続いて「歌える!青春のベストヒット!」

https://www.nhk.jp/p/ts/P72691KN8X/

という昭和歌謡の番組があった。

 そこのゲストも中村雅俊で、「俺たちの旅」のB面の「ただお前がいい」を小椋佳とデュエットした。これもワシャを昭和に引き戻す引き金になりましたぞ(うるうる)。

 ワシャは昭和・平成と何をしてきたのだろう。従兄の呆気ない死に遭遇し、死の淵で人生を見つめなおす正一の心情を見せられ、そして若い時代に心を躍らせた歌謡曲を聴き、いやはや意識が何十年も遡ってしまいました。

 

 突っ張っていた学生時代。筋者の事務所にも顔を出し、その時一緒にいた同級生はその筋の人間になってしまった。テキヤのようなこともしたし、水商売にもどっぷりとはまった。水商売の時の友人は水から足を洗えず、苦労を重ね、後年になって、ようやく地元の工場で安定的な仕事についた。

 そんな環境で、なかばやさぐれていたんだが、それでも夢はあった気がする。今、思い起こしても、漠然としていて、何をしたかったのか、しっかりと思い出せない・・・ことにしておく。

 ワシャは割と器用で、何かを始めると、とりあえず適当にできるところまでは、早い。そして、大した修練を積んだわけでもないのに、見切ってしまうというか、見切ったつもりになってしまう。要するに飽きてしまうんです。たぶん器用貧乏ってやつでしょう。

 ううむ、人生の第4コーナーを回って、何もモノにできなかった人生なのか・・・。

 

 従兄の死、昭和のドラマ、思い出の歌謡曲に畳みかけられて、今、少しばかり感傷的な思いにふけっている。