値段が上がっても取ってます(自嘲)

 今朝の天声人語、「360度、変わる私」と題して800字を書いている。ネット上では149文字は読ませてくれるが、残りは有料なんでヤンス(笑)。

《右から左へ。黒から白に。がらりと180度、正反対に変化するというのは、ひとにとって案外と易しいものではないか。心理学者の河合隼雄氏が随筆集『こころの処方箋(せん)』で書いている。難しいのはほんの少しだけ変わることだと▼河合氏はある人から言われたのだという。「私も随分と変わりました。変わるも変わるも》

 無料はここまでね。「変わるも変わるも」では何だかわからないので、つづきを打っておきます。

《「変わるも変わるも360度も変わりました」。ぐるり1周回って元に戻り、それで変わったとはどういうことか。言い間違えだろうが、それもまた「素晴らしい変化」だと河合氏は思ったそうだ》

 ううむ、やはり「天声人語」の劣化は著しい。かつての栄光はどこへ行ってしまったのだろう。

 河合隼雄氏の著作は何冊も所蔵している。ただし置き場所がないので、段ボールに詰めて物置に積んであった。『こころの処方箋』は記憶があったので、段ボールの横に「河合隼雄」と書いている箱を引っ張り出して、上に5つも本満載の段ボールが乗っかっていたんですよ(泣)。「天声人語」のおかげで朝から重労働だ。

天声人語」の引用部分に戻る。「変わるも変わるも三六〇度も変わりました」の部分は、確かに『こころの処方箋』にあった。患者が河合先生に自分の変化を告げたシーンである。この患者のセリフに続く河合エッセイの文章が以下となる。

《もちろん、この方は自分が凄く変化したことを表現したかったのだろうが、これを文字どおり受けとめても、素晴らしい変化だと言えそうな気もした。》

 この文章で「天声人語」氏は朝のコラムを書くわけだけれど、「天声人語」の《ぐるり1周回って元に戻り、それで変わったとはどういうことか。言い間違えだろうが、》という部分は、「天声人語」氏の言葉ですよね。「どういうことか?」という疑問と「言い間違えだろうが」という断定は朝日新聞の記者が出している。

 これは、河合先生の原文を読むと、まったくそんなニュアンスではない。なぜか、河合先生は「アウフヘーベン止揚)」という哲学用語を知っているからである。「止揚」、思考が360度回転し元に戻ってくるのだが、少しだけ元の考えより上昇している。螺旋を描いていくようなイメージでしょうか。そのことを踏まえて「この方は自分の変化を止揚に喩えて表現したのかもしれないが、そうでなくとも文字どおり受けとめても素晴らしい」と言っている。

 少なくとも子供たちに書き写せと言っている大コラムを書いているんだろう。河合先生の真意は読む取るべきだし、コラムニストなら「止揚」程度の語彙は持っておけよ。コラムが冒頭の3分の1でずっこけてしまったので、残りの部分も適当で、まったく河合先生のエッセイとは絡むこともなく最後にこう締めるだけ。

 コロナ対策のマスクを外して3年前に戻っていくと前置きをしてこう締める。

《でも、と思う。それは同じだけど、同じではない。360度変わった私である。》

 はあ?