除籍本について

 今朝の朝日新聞オピニオン欄。横浜市内の図書館へ行って、多くの図書がごみ回収車に積まれていくのを目撃した老人の嘆きの投書があった。

《「これだけの本を一気に廃棄するのか」「活用の道を十分に探ったのか」と思い、もったいないと感じた。》

 確かに廃棄するのはもったいない。ワシャが昔、ある図書館の建設に関わった時に、廃棄本コーナーの設置を提案した。廃棄本はほぼ毎日出る。それは真面目な図書館の宿命と言っていい。そもそも潤沢な書棚があるわけではなく、そこに市民の要望などで新刊が続々と入ってくる。スペースの関係でやむなく一部の本には退場を願うしかない。「だったら、そのままリサイクル本として市民に持っていってもらおう」ということになった。これは全国の図書館で実施しているスタンダードなんですけどね。

 投書では、横浜市で年間約26万冊の「除籍図書」あり、その内で再利用されるのが4000冊(1.5%)という。確かにこの割合はかなり少ない。横浜市図書館はそれなりの努力をしていると思うが、もうちょっと割合を上げる工夫を施すべきだ。コーナーを設置するスペースがなければ、段ボールに入れて、玄関先に並べておいてもいいし、年に何度かリサイクルデーをもうけて無料配布することだってできる。結構、本がずらりと並ぶと、本好きはついつい手に取ってしまうものなんですわ。そして手に取るとこれがまた手放しがたく、自宅まで持ち帰るってことになって、廃棄本は少なくなっていくのでありました。

 ワシャの書庫にも除籍された廃棄本が何冊かならんでいる。『日本史歳時記三六六日』(小学館)は、それこそ20年以上、ワシャの書庫の中、それもワシャの背後の特等棚に牢名主のように納まっている。おそらく購入後、利用率が低かったんでしょうね。すぐに除籍になり、地元の図書館の玄関先の段ボールに並んでいた。ワシャが拾わなければそのままごみ回収車行きだった。

 でもね、いまやこの本はワシャにはなくてはならない本となっている。366日それぞれの1日に起きた歴史的事件が見開き2ページに何項目も載っている。11月14日は25項目もある。さらに余白に自分の気がついたことや、訃報などをメモしてあるので、ワシャにとっては重要な本となっている。もうこの本は手放せない。

 先日話題にした『春秋左氏伝(下)』(集英社)もリサイクル本だし、奥村彪生『日本めん食文化の一三〇〇年』(農文協)、『西洋教育思想史』(慶應義塾大学出版会)、『日本・ポーランド関係史』(彩流社)などもリサイクルコーナーの棚の隅にひっそりと並んでいたのをいただいてきたものだ。

 おそらく横浜市で廃棄された25万冊の中には、掘り出し物がいくつかあったろう。それを司書だけで決めるのではなく、目の肥えた市民にも選択のチャンスを与えたほうがいい。それが本のためになるし、本好きのためになるし、図書館のためにもなる。三方一両得ではないか。