なりたい職業

《なりたい職業ランキング》

https://yorozu-do.com/work-ranking/

というものがある。ベネッセコーポレーションの調査で、小学生男子の1位は「ゲームクリエイタープログラマー」、2位以下は「ユーチューバ―」「サッカー選手」「野球選手」「研究者・科学者」「漫画家・アニメーター・イラストレーター」「医師」「芸能人」「バスケットボール選手」「会社員」と続く。

 小学生女子は「芸能人」「漫画家・アニメーター・イラストレーター」「パティシエ」「ユーチューバ―」「保育士」「デザイナー」「教師」「看護師」「医師」「飼育員」となっている。

「ユーチューバ―」などが入っているところが今っぽいが、「教師」とか「医師」があって少しホッとする。

 第一生命のアンケートによると、「警察官」「公務員」などが入ってくるので、ううむ、小学生といえどもかなり現実的でありますな。

 

 それはそれとして、「小学生から見向きもされない職業」というものがあるらしい。元衆議院議員で弁護士の若狭勝氏の著作から引くんだけど、それはね、「政治家」なんだってさ。ランキングで141位というからかなり下である。140位が「刺青師」だったそうな。「末は博士か大臣か」と言われていたのは、遠~~い昔の話のようだ。若狭氏は言う。

《小学生だけではない。若者・青年・シニア等にとっても同じようなイメージではなかろうか》

 なぜ「政治家」が子供たちから見向きもされない職業に落ちてしまったのか?ひとつには「政治(家)不信」がある。そしてなにより「政治家」が格好良くないのである。市会議員、県議会議員は言うに及ばず、国会議員だって近所のオッサンたちに適当にあしらわれる時代になってしまった。

 小選挙区が導入される前までは、国会議員は威張っていたものである。威張っていることがいいわけではないけれど、それなりに威厳があり、近所のオッサンからは一目も二目も置かれていた。しかし、今や国会議員は地元のお祭りや会合にヘコヘコと出かけて、愛想を振りまき、次期選挙での得票につなげるための活動を日夜続けていかなければならない。

 ワシャの地元だって、地元のオッサンたちは「A議員は連絡をしなくても御祭りに必ず挨拶に来るが、B候補は連絡しないと来ない。生意気だ」と息巻いている。オッサンたちの好悪に思想信条は関係ない。「来たか来ないか」だけが大きな判断となる。

 それは国会議員たちもよく分かっていて、だから金曜日に選挙区にもどって週末を選挙民へのゴマすりに使って、月曜日に東京に戻っていくのだ。そういった卑屈な活動を、祭りやイベントで子供たちも見ている。家では、政策もなにも判らないようなオッサンが「あの国会議員は生意気だ」とか酒を飲みながら喚いているのを子供たちは聞いている。普通、そんな職業に将来就きたいとは思いませんわなぁ。

 若狭氏は、「政治家の地位向上」のためのいくつかの案を提示している。その中のひとつに「当選回数至上主義の変革」を挙げている。若狭氏の言を引く。

《他の分野で活躍し、はじめて政治に足を踏み入れると、馬鹿らしくて政治家などやっていられないという思いを抱く人も少なくない。》と前置きをして、その理由をこう述べている。

《それは、人物の実力ではなく、資質の高さでもなく、当選回数という魔物に動かされている世界であるからである。私が中にいて感じたことは、国会議員は、当選回数だけを尺度にいている馬鹿どもが多い。》

 いえいえ、若狭さん、それは国会議員に限ったことではありませんよ。県議会も市議会も、政治家の集団ができれば、そこではまず当選回数がモノを言う。自民党の二階幹事長がブイブイ言っているのも、当選回数12回という実績がものを言っているのだ。

 当選1回で大蔵大臣に大抜擢された池田隼人のような例は、令和の時代では夢幻ような話ですわなぁ。池田を抜擢した吉田茂にしたって、内閣総理大臣だったけれど、選挙の洗礼を受けていない貴族院議員であって、衆議院議員ではなかった。これが現在なら、吉田も池田も衆議院議員選挙を経てから、期数を重ねなければならず、そうなると吉田内閣も池田内閣も現れなかった。実際に、池田大蔵大臣の就任については、党人派の、今でいう二階幹事長のような輩が真っ向から反対したんだとさ。まだ当選回数という魔物が活性化していなくてよかった時代である。

 若狭氏は言う。

《民間からもっと多くの人が国会議員になることが必要であると思われるが、民間から国会議員になってそれまでの経験を国民のために政治で活かしたいと考えても、当選回数という尺度だけで動いていく壁に阻まれることになる。それでは国民のための政治はできない。当選回数至上主義こそ打破すべき悪習である。》

「当選回数」というものは残念ながら実力とは全く関係ない。池田は当選回数1回で大蔵大臣を務め、吉田にいたっては衆議院当選回数0回で首相を拝命している。昭和の前半はことほどさように政治家の序列にはこだわっていなかった(一部の党人派はやっぱり年功序列にこだわっていたけどね)。

 今、彼らが現職の政治家であったなら、おそらく「なりたい職業ランキング」の上位に「政治家」が入ってきただろう。二階幹事長じゃぁ・・・残念だったね。