切れそうなベルト

 昔、凸凹商事時代の記憶である。

 ある建物の設計案の説明をしている時に、上司からこう言われた。

「センスがない」

 書類を投げられ、案は一蹴された。

 その上司、気が短いことで有名だった人で、気にいった部下とはくだらない話をだらだらとするのだが、気に食わない部下とはほとんど口をきかない人だった。

 その人、凸凹でもトップクラスの年収をもらっていて、本部長になった時にクラウンの一番いい車種を買い、さらにその上に昇進した時に新車の外車に乗り替えたくらいの人なんですよ。だから金は持っている。

 ワシャのプレゼンを聞いている時に、ワシャの目の前の椅子にそっくり返っていたので、ついつい上司のベルトに目が行ってしまった。黒いベルトをしていたんだが、そのピン穴の周辺が撚れて破れている。そのベルトばかりを愛用しているんでしょうね。さらにそのベルトでぶかぶかのズボンをギューギューに締めて履いているから、そこの穴に負担がかかり拡がって裂けてしまったのだろう。腹に力を入れると「ブチッ」とか千切れそうで・・・。

 夏だからジャケットを着ておらず、そっくり返っているから、ベルトの裂け目がモロ目立ってしまっていた。ベルトなんて1000円も出せば売っているんだから、安物でもいいからキレイなのを締めようよ。

 そんなケチな野郎に「センスがない」と言われてもねぇ(笑)。結局、ワシャが持参した案を押し通すことにしたが、その上司はとても不快そうだったのを憶えている。でもね、センスのないやつに「センス」のことを指導されてもねぇ。

 格好ばかりにこだわっていてはいい仕事はできない。見た目よりも中身だ。千切れそうなベルトで膝の丸まったズボンを締めて活動する、それはそのとおりだと思う。でもね、最低限の身だしなみはしようよ。少なくとも責任のある地位にある人は、その人が会社の顔でもあるのだ。清潔にしていることも当然であるし、破綻していない姿を見せましょうよ。