「いきってんじゃねえぞ」の使い方

 常磐自動車道であおり運転をした上に、あおった相手を打ん殴った阿呆のニュースで大騒ぎだが、そんな話こそ一報を流せばそれで終わりでいいのではないか。

 阿呆が、どこの学校を出て、どこに就職して、いつ遺産相続したかなんていう話はどーでもいい。

 むしろ香港の民主化デモがどう推移しているか、北朝鮮情勢はどう動いているのか、

昭和天皇の重要な記録である「拝謁記」の詳細を伝えるとか、報道することは山のようにあるだろう。しかし、小金持ちのあおりチンピラの話ばっかりで、これがテレビマスコミの現状なんだろうね。

 阿呆を逮捕するところだってさ、フジテレビのカメラがいたばっかりにあれだけ手間がかかってしまった。そんなものちょっと抵抗したところで「はい、公務執行妨害ね」ということで緊急逮捕だって可能なのだが、カメラがライブ中継で映しているので、警察官も軽率なことはできない。ちょっとしたミスにクレームをつけたがっている輩が五万として、そいつらがどうケチをつけてくるか分かったものではないからね。そこは慎重に慎重をきして対応をせざるを得なくなった。逮捕に時間がかかったのも、現場の警察官にストレスをかけたのも、阿呆を調子づかせたのも、みんなマスコミのカメラのせいと言っていい。

 

 それにしてもあおりの阿呆の言動を見ていて笑ってしまった。こいつクソガキのまま成長し、まったく人間的な進歩ができなかったんですな。常磐自動車道でも大阪の逮捕時でも言動が「いきがっている」んですね。ワシャらが高校生の頃は「いきっている」と言っていた。あおり阿呆は、そんな「いきり」をぶら下げたまま43歳になってしまったのね。

 こんな思い出がある。昭和50年代の私鉄の駅前。真面目(笑)な学生のワルシャワ君は、隣の町のVANショップに秋物のジャケットかなんかを買いに行こうと駅前の歩道を改札に向かっている。駅前のロータリーのところまで来ると、剃り込みの強いヤンチャそうな学生服の2人組が、歩道の真ん中でウ〇コ座りしてエンタを吹かしているんでございます。エンタというのはタバコのことでございます(寅次郎)。ワルシャワ君、その時は学ランを着ておりませんでした。当時の不良学生は学ランで格が決まっていて、ワルシャワ君の学ランは、長ラン・6つボタン・ハイカラー・裏地に虎と竜の刺繍・ボンタン(ズボン)のもも周りはウエストサイズ・エナメル靴とかなり格の高いスタイルだった。この格好をしているとたいていのワルは近寄ってこない。

 でもね、その時はVANのコッパンにブルーのストライプのボタンダウン、薄い黄色のカーデガンを引っ掛けた普通の高校生のいでたちでした。普段なら、歩道の通行を邪魔するように座っている(高速道路の走行車線で停車しているような)クソガキは蹴散らしていくのだが、一応、小奇麗な格好もしているし、早くVANショップに行きたいし、普段は性格もフツーですから(笑)。

 そんなわけで、ワルシャワ君は歩道の脇に避けてツッパリ2人を通り過ぎようとした。すると座っていた人相の悪いガキが「なにメンタン切っとんねん」と突っかかってくるではあ~りませんか。あおり運転の阿呆と似たようなもんですわ。ちなみに「メンタン」というのは「メンソレターム」のことではありません。当時の高校生が「睨む」ということを「メンタンを切る」と言っていたんですね。人にあおりを掛けるときの常套句と言っていい。それを言われた。

 ワシャはこれから隣町に行って買い物をする楽しい状態にある。だから喧嘩して、服を汚すのも嫌だ。だから、穏やかに「メンタン切ってないよ」と答えた。

「いや、お前は通り過ぎるときにオレのことをチラッと見た」

 お前はサルか!目が合ったら突っかかって来るんかい!と言い返したかったが、もめたくないので「見てないよ」と言った。

 そしたら座っていたもう一人のほうが「なんかこいつ生意気だな」と言い出す。

 なに言っていやあがる、おめえら、なんのかんのと言いがかりをつけてワシャから金をたかろうというだけじゃねえか。めんどうくせえなぁ。

 ここでワルシャワ君は喧嘩などしません。大声を上げたりもしないんですよ。バッチを見れば隣町の工業高校の生徒だということが分かった。ワシャと同じ中学校からも野球の上手いのやら、理系の頭のいいやつが行っている。もちろんワルも進学をしている。

 相手の所属が判ればやりやすい。そもそも学校のバッチをつけていきっているのはほぼバカだ。ワシャはそいつらにぐっと顔を近づけて、低い声でこう呟く。

「お前ら、丘月工業の生徒だな。3年のブリザキって知っているか?」

 ブリザキというのは、丘工で番を張っている男で、ワルシャワ君の友人なんですね。

「凸凹高校のワルシャワにたかりをかけてボコボコにされましたって報告したいか?」

 ここで、ぐぐぐっと凄みを利かせて目を見開く。「団十郎のにらみ」のようにね。相手は2人だから真剣に喧嘩をすれば負けるかもしれない。でもね、ここでひるんではいけないのだ。この数秒のにらみ合いで勝負は決まる。

 相手が目を逸らす。そしてすっと後ろに下がる。

「なんだ、ブリザキさんの友達かよ」

 ここからが大事でね、そこで手打ちをしてはいけない。その刹那、距離をとった剃り込み野郎にとびかかり胸倉をつかむ。当時の学ランは詰襟のところにプラスチックの「カラー」というのが付いていて、これがけっこう首に当たると痛い。これをグリグリと首に当てながら、

「おまえ誰に物言っているのか分かってんのか?ブリザキに聞いてこい」

 と言いながら、どんと突き放す。

 番長を「さん付け」で呼んだ中途半端な連中と、「呼び捨て」にしたなんだか迫力のあるヤツでは、端から勝負にならなかった。

「いきってんじゃねえぞ!」

 とワルシャワ君は捨てセリフを吐いて、とはいえ喧嘩にならずにホッとしながら駅の改札のほうに歩いていくのだった。

 だいたい「いきってんじゃねえぞ!」の使い方がお解りいただけたでしょうか。