選挙と民主主義のいかがわしさは中学校で学んだ(2)

 左巻きPTAに後押しされたショッカーは、仮装行列を中止すべく内申書を気にする秀才の生徒会役員やクラス委員を抱きこんで多数派工作を進めている。
 中学校の思い出に、どうしても仮装行列をやりたいワシャらも手を拱いていたわけではない。まず、息のかかった下級生の学級委員から教師側の圧力の度合いを探った。
「担任の先生から、仮装大会をやることがいかに無駄かということを30分くらい言われました。先生にあれだけ言われちゃうと、ぼくも仮装行列に賛成することは難しいと思います」
 ううむ、敵はかなり根回しをしているようだ。
 これはまずいということになり、推進派(ワシャの支援者たち)も動き出した。しかし、ここに陥穽があった。なんと……推進派は、ワシャを含めて教師に睨まれているワルガキばかりで、下級生の学級委員(秀才たち)はワシャらが訪ねていくと怖がってしまって話にならない。
 多数派工作は、形勢不利のまま、生徒議会の日を迎えた。
 議題はいくつかあったが、定型的なものばかりで賛成多数で採決されていく。そして「議案13 体育大会の仮装行列について」が議会にかけられた。議案説明は体育委員長である。こいつもショッカーの息がかかっていたが、議会の前に体育館の裏で脅して……いえいえ、きちんと話をして納得してもらいましたよ(笑)。
 しかし、なんだか気合の入らない説明だね。仕方がないか、反対派なのに賛成の提案をさせられているのだから。牛の小便のような説明がようやく終わって、ようやく採決となる。議長は、ワシャと会長を争ったブリ山だ。
「採決をとります。仮装行列の実施に賛成の人は手をあげてください」
 ぱらぱらと手が挙がる。過半数はどう数えてもない。ブリ山が「賛成少数、よってこの案は否決されました」と言ってしまえば、それで終わりだ。どうしようもない。ブリ山が「さ……」と言ったところで、ワシャは机をひっくり返した。
「議長!」
「なんだよ、ワルシャワ
 議長は机が倒れたことに動揺し、思わずワシャの名前を口にした。よし、これで発言できる。
「採決の途中で申し訳ないが、ひとこと言わせてもらう。この仮装行列は何年も続いてきた伝統行事である。これを君たちの代で中止していいのか。伝統の灯を消すことになるんだぞ。やりたくないクラスもあるだろうが、やりたいクラスもあるんだ。やることのできる可能性だけは潰さないでほしい。オレの目の前で先輩たちから受け継いできた伝統が殺されるところを見るのはごめんだ。退席する」
 そんなようなことを言ったんですね。そして執行委員の席を立って会議室から出て行こうとした。そうすると議会に立ち会っていた指導部の女性教諭がワシャの行く手を阻む。
「席にもどりなさい。ワルシャワ君」
「どけ!」
 女先生を振り払って、ワシャは会議室を出て行ったのだった。

 後は仲間の美化委員長がなんとかする手はずになっている。生徒議会の推移はわからないが、打ち合わせどおりならなんとかなるはずだ。
 30分程して、美化委員長がクラスに戻ってきた。
「どうだった」
「自由参加ということで仮装行列は実施することになった」
「よし」
 ということになった。よくやったじゃないか、美化委員長。

 手はずはこうだった。
 ワシャが怒り狂って生徒議会を退席する。当然のことながらワシャの責任を問う声が出るだろう。それを制して美化委員長が一席ぶつ。
「会長が議会を退席するというのは普通のことではない。それくらい仮装行列について思いがあるということじゃないのか?伝統をつないできた先輩たちに対しても、これから続く後輩たちのためにも、もう少し慎重に審議したほうがいい」
 こんなにうまく言えたかどうかわからないが、そんなようなことを言うはずだ。
 そして、この発言に3年E組の学級委員が反応する。因みに3Eはワシャのクラスなのじゃ。だから、この委員も推進派の一人で、打ち合わせ済みである(笑)。
「確かに会長の言うとおり、K中学校の長年の伝統である仮装行列を簡単につぶしていいものだろうか?」
 結局、緊急動議が出て、自由参加という限定付きだったが継続開催となった。それでいいのだ。参加しないクラスがあってもいい。3年E組が教師たちのお墨付きをもらって大騒ぎできればいいのだ。
 この時の議会に出ていた1年生と今でも親交があり、時折、酒の席なんかでこの話がでる。
「あの時は本当に驚きましたよ。まだ僕ら、小学生に毛が生えたくらいの年齢でしょ。中学っているのはこんなに怖いところなんだと思いました。ワルシャワさんが怒って退場したでしょ。その後に、3年生から折衷案が出てぼくら1年生はホッとしました」
 黒白をつけることが1年坊主にできるわけがない。そう踏んで、議会を一度壊して、折衷案を出してそこに落とし込む、そういう作戦だったが、見事に成功した。
 この作戦でもっともネックだったのは、ショッカーの存在だった。ヤツがいると、絶対にこの作戦は成功しない。ショッカーを議会からどう締め出すか、それが一番大変だった。
 でも、運よくショッカーはいなかったんですね。偶然にしては出来すぎではないでしょうか。仮装行列の神様が助けてくれ
たのかな。ムフフフフ……。