痕跡本

 今朝の朝日新聞1面「折々のことば」が、《書物(紙の器)はそれ自体が物語なのだ。》だった。古書店店主の著作から引いたもので、鷲田清一氏は「どういう人たちの手を伝ってこの本がここに来たのか推し量りたくなる本がある」と解説している。

 そうねぇ。本好きの人間はみんなそう思うだろう。読書というよりも本そのものが好きなので集めてしまう、そういうこともある。

 ワシャも本を掻き集めることに血道をあげるほうなので、いろいろな本が集って来るのじゃ。最近だと、「虎ノ門ニュース」にちょくちょく顔を出すようになったKAZUYAさんの『日本が知っておくべき「日本国憲法」の話』(KKベストセラーズ)に痕跡があった。

 このところ憲法関連の本を集めていて、ブックオフで210円で入手したものである。家にもどって本を眺めていたら、裏表紙の内側にKAZUYAさんのサインがあるのに気がついた。サインとともに「29.11.5」と日付が入っているので、このサインが3年前に書かれたものだというのが判る。この本を買った人は、KAZUYAさんのサイン会に行ったんだね。そこでサインしてもらったのに、もうブックオフに売っちゃった。本の整理をしていて、サイン本であることを失念し、他の本とともにブックオフに出してしまったのか。

 この手の本にしては、ラインやマーカーも引かれておらず、きれいなままだった。前の所有者は、はたして読んだのであろうか。ワシャの本だと、ラインは引いてあるし、付箋は貼りまくって、書き込みまであるので、痕跡だらけの本ばかりなのだった。

 

 最近買った本では、津田類『歌舞伎と江戸文化』(ペリカン社)に、某美術館のおそらく学芸員とおぼしき人宛ての「納品・請求書」が挿まれてあった。名古屋の丸善から2007年12月に発行されたもの。ふ~ん、学芸員が読んだんだね。でも、それにしてはこの本もきれいだった。資料として読み込むならもっと汚れていてもいい。この学芸員は女性だったので、おそらくきれいに本を読む人だったのかもしれない。

 

 今までで一番痕跡の多かった本は、平成28年に買った高橋良和『永観堂禅林寺』(探究社)だった。まず、表紙の裏に永観堂御朱印があり、本の中には、東海銀行のメモ用紙に細々とした出費のメモ、「SHOSEN BOOK MART」のリスのしおり2枚、「銘菓一壺天」のしおり、「東福寺方丈内苑八相庭に就て」というチラシが挿んであった。

 ワシャの持っている痕跡本の中では、もっとも証拠の多い本で、メモの筆跡で性格も類推でき。甘い物好きで、書店でしおりを2枚もらってしまう感じから、神経質そうな細身の中年紳士を想像する。

 

 ことほど左様に痕跡の残った本はおもしろい。