かがりという魔性

 夕べ、BSで「男はつらいよ」第29作「寅次郎あじさいの恋」をやっていた。ワシャは「男はつらいよ」シリーズを全作DVDで持っているので、わざわざCMがカットインしてくるBSで観る必要はない。

 だけど、この作品だけは見入ってしまうんですね。

 

男はつらいよ」には数多のマドンナが登場する。ダントツの人気は2つの作品に登場する吉永小百合(歌子)だが、ワシャは吉永の演技の下手さに感情移入ができず、あまり評価をしていない。おそらくワシャの確認している朝日新聞の「ランキング」では、吉永そのものの人気が反映されているものと思われる。小百合ストなんて人種がいるくらいだからね。とくに朝日新聞の購読者には、サヨクの女神なんだろう。

でも、ワシャが吉永に対して、批判的なのは、彼女がデュープスだというのは関係ない(笑)。本当に演技が下手だと評価しているからである。

 2位に浅丘ルリ子(リリー)、ワシャは4作品に登場するリリーが一番だと思っている。存在感、演技力、寅次郎との距離、どれをとっても吉永なんぞの追随を許さない。

3位/大原麗子(早苗)、4位/竹下景子(3作品)、5位/松坂慶子(2作品)と続く。大原麗子も、早苗の魅力というよりも大原本人の人気に引きずられていると思う。

「男は辛いよ」の中で、強い印象を残した魅力的なマドンナは、第29作に登場する「かがり」である。京都の陶芸家のところで女中をする丹後伊根出身の薄幸な女性を石田あゆみが演じる。

 おそらく寅次郎が唯一危険な状況(男女の関係)に陥りそうになったのがかがりであり、寅次郎が寅次郎でなく「男」の面を見せる相手と言っていい。48作品中でこれほどエロティックなシーンに登場する寅次郎は他にないし、寅をぐいぐいと攻めてくる女性の頂点にかがりがいる。

 体形が細すぎて、精神が繊細過ぎて、女性的な魅力の乏しいかがりだが、その色っぽさは優等生の歌子などは足元にも寄せ付けない厳しさがある。

 寅次郎に好意をよせる女性は多い。なかには結婚をほのめかす女性も多かったけれど、かがりの好意の量は怖いくらいだ。だから魅力的なのである。

 伊根の港で、船で去っていく寅次郎を気だるそうに見送るかがり。ついに立っておられず手すりに腰を下ろす、その風情が儚げである。

 この別離のシーンは、洋画も含めて数ある映画の中でも珠玉のものだと確信している。この魔性のような女性を置き去りにできる男は、寅次郎しかいないだろうね。

 男と女の描き方をふくめ「寅次郎あじさいの恋」は恋愛映画の名作である。