勝手に闘え

 朝日新聞は、ある意味で解りやすくていいですね。社説やコラムはほぼその反対を考えておけば、人の道を外すことはなく、国のゆき方を誤ることもない。

 時折、要注意人物の特集が紙面をにぎわすのも、西部劇のお尋ね者のビラを見るようで、これもこちら側にリテラシーがあれば楽しく読むことができる。

 今日も腹を抱えて笑わせてもらった。「オピニオン欄」のインタビューが、なななんと、あの伊藤詩織氏だったのじゃ。ここには、ときおり「あの」津田大介氏が寄稿するといういわくつきのページなのだが、「あの」伊藤氏がなにを騙るのかが、読む前からワクワクするのだった。

 

 インタビュアーの編集委員は「あなたは何と闘ってきたのですか?」と疑問を投げかける。

 伊藤氏は何とも闘っていないんですね。要するに自分自身の閨事(ねやごと)をネタにして名前(ネーム)を売りだしたということでしかない。たまたま、山口氏がそのターゲットにされて、彼の人生が一人の女の「売名」のために踏みにじられたということ。

 そもそもこの「閨事」は刑事事件では不起訴になっている。残念ながら、ホテルの密室で起きたことは、当時者の男と女の間でしか真実は判らない。それは芥川龍之介の「藪の中」でも語られたように、絶対に「藪の中」なのである。

 例えば、「閨事」が強姦であるというなら、必ずや身体のどこかに傷が残る。もみ合っただけでも(もみもみし合ったということではないですよ)、内出血や痣が残るだろうし、直後に医療機関を受診すれば間違いなく診断書を書いてもらえる。

 ところが、このインタビューの中でも本人が言っている。

《警察に被害を訴えてもたらいまわしにされた上に『よくあることだから被害届は出さない方がいい』と言われ、医療機関でも十分なサポートを受けられなかった。》

 警察だって、強姦事件の対応は経験則があって、伊藤氏の話では、「痴話喧嘩」の範疇をでるものではないと判断したのであろう。医療機関でも、身体的な被害状況の所見がなければ、サポートのしようがない。

 このことを伊藤氏は「これが私の住んでいる社会なのかと驚き、絶望しました」と、例の、なんでもかんでも「社会が悪い」という朝日新聞仲間お得意の屁理屈に持ち込んだわけですね。これで、彼女は「世に出るための大義名分」を己の閨事と引き換えに手に入れたということになる。まさに『Black Box』という暴露本めいたフィクションを出版するに至ったわけだから、これにまさる悦びはなかっただろう。

 また、こんなことも言っている。

《『やめて下さい』では全然効果がなかった。むしろ逆効果で、日本では嫌よ嫌よも……って言われるんだと思いますが、まだ20代だった私が、ずっと敬語で接していた人をどうしたら威圧し、制することができるのか。》

 って、20代の成人女性ですよね。いくら相手が敬語で接する相手だとは言え、強姦されそうになっている状態で「やめて下さい」はないだろう。事後にそれだけ根に持つのだから、現場で、なにかを言う前に「徹底的に抵抗」でしょ。腕で突っ張る。顔を押す。引っ掻く。叩く。足で蹴り上げる。噛みつく。なんなら急所をつかむ。あるいは潰す。やれることはいくらでもあって、それをしなければダメでしょう。

《これをなかったことにしたら自分が壊れると思った。》なら、徹底抗戦をしなければ嘘になる。

 伊藤氏は現場ではこう思った。

《パニックになりながら、忘れてしまえばいいんだと思った瞬間がありました。》

 それで受け入れたんだ。

《自分の意に反して踏みにじられる感覚は、まったく初めてではなかったんですよね。痴漢だったりセクハラだったり似たような体験はいくつもあり、女の子として刷り込まれるように成長してきた。その延長で事態を理解し、自分を無理に納得させようとした。》

 納得にいたってことに及んでいる。これって通常のSEXのプロセスと大差ないよね。納得しなければ、自分が壊れるんでしょ。だったら絶対に己の尊厳のために現場で闘うべきだ。ジャーナリストを目指しているのだから、現場でそのくらいの強さは持っていないと、実力では伸していけないよ。

 暴露本一冊で、国際ジャーナリストになってしまったかのようなインタビューだったが、自分の足を食っていくだけでは、いつまでも続かないと思う。いずれ、本物のジャーナリストの山口氏は、民事でははめられた格好になっているので再度攻勢に転ずるだろう。

 

 その時に朝日新聞は山口氏のインタビューは絶対にしないだろうなぁ(笑)。で、また、騒ぎが大きくなれば閨事ジャーナリストのほうは、オピニオン欄に登場する機会があるのだろう。

 

 月刊『Hanada』に、文藝評論家の小川榮太郎氏がこの件について寄稿している。その文章を引く。

《誰に唆されたかしらないが、虚偽を重ねて、あなたに親身になろうとしていた一人の男を破滅させ、家族に身の置き所をなくさせ、その父親を失意のうちに死に至らしめた。そのうえ、性被害者を装い、世界の輿論を虚偽で掻きまわすことで、世界中で真の性被害者に苦しむ人たちの苦悩を悪用し、侮辱した。》

 嬉しそうに、オピニオン欄に登場している場合か。