清々しい無視

 昨日、地元の公会堂のようなところで、凸凹商事の新年の挨拶会があって、なんだか面倒くさかったけれど、誘われたので顔を出してきましたぞ。

 そこには、凸凹商事の社長も副社長も居並んでいて、地元の名士たちも顔を揃えていた。どうだろう、エントランスには200人くらいのメンバーがごった返していたのではなかろうか。

 ワシャはというと、そのごった煮の中に入るのが煩わしいので、通用口の横に顔見知りのオジサンがいたのを幸いに、その人に声をかけて雑談をして時間をつぶすことにした。おっと、オジサンなんて言ってはいけない。この人、地元の関連会社の会長なのである。前の社長選の際には長期政権になる現職に対抗馬を出して、その旗頭となって戦った志のある人だった。仮にOさんとしておこう。

 Oさんとは、ちょうどその頃からご縁ができて、なぜかワシャみたいな半端者にも親しく声を掛けてくれるようになった。つい数日前も、近くの図書館のところでばったり会い、新年のご挨拶をしたところだった。その人が、凸凹商事の社長や名士の群れから離れてぽつねんとしていたので、「おはようございます」と声を掛けたのだった。ワシャが横にいて、天気の話やら、共通の知人の話、先日の図書館での話など取り留めのない話でワイワイと盛り上がっていたので、目につきやすくなったんでしょうね。人望のある人なので、この人の顔を見つけて、声を掛けてくる人が多くなってきた。屈託なく応じている笑顔を見ていても楽しい。

 相手は、まずOさんに挨拶をし、横に並んでいるワシャのことを見知っている人は、ついでに「おめでとう」と声を掛けてくれる。「こいつは効率がいいや」ということで、Oさんの横に陣取ってしまった(笑)。

 そうしたらね、麻生副大臣のようなハットをかぶった男がOさんに近づいてきた。その男がハットを取ってハッとした。凸凹商事の前の副社長ではありませんか。今は引退して隣町に隠棲したと聞いていたが、お元気そうで何よりです。

 その人が、Oさんに「明けましておめでとうございます」と慇懃に新年の挨拶をした。

 Oさんはというと、今までの人には「元気にしていたか?」とか「久しぶりだねぇ」とか、応じていたんだけど、この人に対しては、無表情で「あ、おめでとうございます」とそっけなく答えたきりであった。

 なぜか。

 その理由をワシャは知っている。それは、以前から前副社長が関係者に現社長批判をしていたにも関わらず、凸凹商事社長選の折には、現社長陣営の先頭で応援に入っていたことをOさんは知っているからである。

 とはいえ、前副社長の行動もポジション的なことを考えれば仕方のないことであり、同情すべき部分もある。

 ワシャは、元凸凹商事社員であるから、副社長とは顔見知り以上の関係にある。当時は社内的にいろいろな確執があったにしろ、終わってしまえばノーサイドだ。だから、丁寧に挨拶をしようと思って、一歩前に出かかった。

 その瞬間である。

 前副社長は、きれいに「回れ右」をして、ワシャには目もくれず、というかその存在すら認めていないがごとく、踵を返すとさっさと会場の中に消えていった。清々しいほどにである。 

 ネチネチいじめられたのはワシャのほうじゃん(笑)。目を合せてくれれば、丁寧に新年のご挨拶を申し上げたのに、そんなに嫌いだったのか・・・残念でした(舌)。