劣天声人語

 今朝の「天声人語」が酷い。こんなのなら中学生でも書ける。毎年、住友生命が発表している「創作四字熟語」を11個、年間の事件とともに並べただけのもの。ホント、天声人語を書いている担当者の劣化をひしひしと感じる。

 作家の日垣隆さんが「天声人語」のパワーダウンを嘆いたのは、18年も前のこと。あれからまったく進歩していない。むしろ悪化の一途なのである。

 今日の「天声人語」を分析してみよう。

 まずは、今年のトピックを拾い出す。「ラグビー日本代表の活躍」「渋野日向子選手の全英オープン」「東日本の台風被害」「首里城火災」「京アニ放火事件」「韓国問題」「イギリスのEU離脱」「新元号」「中村哲医師の死亡」「桜を見る会」・・・これらの事件を洗い出すのに10分とかかるまい。そしてそもそも「創作四字熟語」が時事ネタをベースに2万編も寄せられているのであるから、そこから関係の「四字熟語」は選びたい放題で、これも10分とかかるまい。

《国籍を超え、同じ桜のジャージーに身を包むラグビー日本代表。「一心桜体(いっしんおうたい)」を体現したチームに列島がわいた。》

《ゴルフの渋野日向子選手は全英女子オープンを制して「覇顔溢笑(はがんいっしょう)」。新しいヒロインが誕生した》

 なんてものを10個並べて360字を埋める。90字で「創作四字熟語」の選者や応募件数などを書く。天声人語は600字であるから、4分の3を、よそから引っ張ってきたことで埋めておしまいである。

 結びの文章の《作品の募集締め切り後のニュースで、小欄も練ってみた。》で始まるところも、まぁここもニュースの部分の引用が87文字あるのでそれを差し引くと、「小欄」と称する記者のオリジナルな部分は、上記の《作品の募集・・・》の26文字と、自分で考えたであろう「灌漑無量」と「桜飯振舞」の8文字、末尾の《追及は年を越えて続くか。》12文字だけやんけ。

 こんなのを書くのに24時間も時間が与えられているとは。それも住友生命の情報が入れば3日前でも4日前でも書いておけるという楽な仕事だ。

 オピニオン欄の「多事奏論」という駄文も同じ傾向を示している。

《桜鍋に舌鼓をうち、黄桜のパック酒を飲みつつドラマ「同期のサクラ」を見て主題歌「さくら(二〇一九)」を口ずさみ、さくらももこの「ちびまる子ちゃん」に癒やされ、こうの史代の「夕凪(ゆうなぎ)の街 桜の国」に目頭を熱くし、さあ、これだけ桜を注入すればイケるだろうとパソコンの前に座ってみるけどやはりだめ。「多事奏論」、まったく筆が進まない。仕方ない。寝よう――このところ、そんなような毎日を送っていた。》

 この文章の前半の部分は「物尽くし」という手法で、これはそれほど難しいものではない。落語家もよく使う手だし、「桜」なら「桜」の関連のものを並べればいいので、比較的安易な方法と言っていい。たかが6つ並べただけで一人悦に入っているだけですな。これっぱかりの桜を注入しても、そりゃ続いていきませんわ。《まったく筆が進まない。仕方ない。寝よう》って紙面で言い訳してんじゃねえよ!

 要は「桜を見る会」への批判を書きたいのだが、字数が埋まらず、こんな言葉遊びを埋め草として使う。そもそもこの編集委員がなにも取材をしていないから、新鮮なネタなどなく、それじゃあまともな論は書けません。終始、文章遊びに撤しているので、内容もスカスカでこちらへ伝わってくるものはまったくない。

 朝日新聞紙よ。大丈夫か。