達人にはなれない

 プップ!朝から思わず吹き出してしまった。
 今朝の朝日新聞にB4サイズのチラシが挿まれていた。どこのパチンコ屋だろうと思ってひょいと見ると――今日から始める「天声人語書き写しスタートセット」を――という字が目にはいった。内容を読めば《朝日新聞の看板コラム「天声人語」には、文章を書くために必要なエッセンスが凝縮されています。》プププッ。凝縮なんてされてないって。確かに昔は達人が書いていた。
 作家の日垣隆さんが『エースを出せ!』(文藝春秋)で《昨春から天声人語クンが綴る中学生以下の作文力には、目を見張るものがある。》と指摘されたのが2000年前後。以降、コラムニストの勝谷誠彦さんなどまともな書き手からバカにされつづけても、そのクオリティが復活することはなかった。
 今朝の天声人語もひどい。二松学舎大学に登場した夏目漱石のアンドロイドの話を拾ってきた。人間に近い動きをするアンドロイドのニュースは手垢のついたもので、製作者本人に似せた不気味なアンドロイドはあちこちの番組に登場している。その顔を夏目漱石にしただけのものを昨日の午後、見に行ったそうだ。
「動きがなめらかだ」
「『夢十夜』などを朗読してくれた」
漱石はお洒落だった。アンドロイドもお洒落だった」
おいおい、アンドロイドを直接見れば中学生にだって書ける文章で、「結」にいたっては《いつか粋に羽織はかまを着こなす先生に会えるかもしれない。》ってひねりもなにもない。「着替えさせろ!」って話で終わっている。
 朝日新聞は、これを読者に「書き写せ」と言う。それも金を払ってですぜ。なななんと、「天声人語書き写し達人セット」が2592円のお得なプライスとなっております。ノート12冊と鉛筆2本などがついてきますぞ。そして別売りで「天声人語タブロイド版」「天声人語書き写しノート保存ボックス」が手に入る。これらを合計すると3500円である。
 下手な文章を書き写しても絶対に文章の達人にはなれない。書き写すなら上手の文章、例えば、前述のおふたりのコラムや天野祐吉さんの手によるものでもいい。司馬遼太郎の『風塵抄』を手本にしてもいい文章が覚えられる。それに書き写すのにわざわざ専用ノートを買う必要はなく、3冊100円のノートで事足りる。ワシャは書き写しはやっていないけれど、印刷して使った後のA4用紙の裏を束ねてノート代わりに使っている。それで十分だ。鉛筆だって家に転がっていますよね。
 文章修業をしようとするのはいいけれど、家にノートも筆記具もないとしたら、いまからどれだけ努力しても達人にはなれませんぞ。それに「天声人語」じゃねえ(笑)。朝日新聞の上から目線商売にのせられてはいけない。