秋澄む三題

 ワシャの書庫に『現代日本写真全集』(集英社)がある。その第6巻の篠山紀信『女優』がいい。縦38センチ横27センチの大型本で箱入りだ。箱の表には日本髪を結った岸恵子さんが写っている。赤い襦袢姿で紅筆を唇に当てようとしている瞬間を捉えた妖艶な一枚である。40代後半の熟れた女が表現されている。箱から本を出す。本の表紙は山口百恵である。退紅(あらぞめ)色の着物に浅黄の帯を締めている。20歳になったばかりだろう。可愛いんだけれどもうひとつ色気がない。
 本を繰れば、日本を代表する女優たちが妍を競って和のテイストで登場する。太地喜和子もいいねぇ。矢絣のまとう大原麗子も素敵だ。深紫(こきむらさき)の襦袢の肩を抜いた山口いづみも色っぽいですぞ。
 お茶室の外の腰掛待合に座る山本富士子は絽の黒留袖を着ている。長じゅばんの桔梗柄が透けて見えていかにも涼しげだ。手元でひろげ掛けた扇を見つめて微笑む山本富士子は大人の女性の美をたたえている。まさに日本の美だ。
 小川知子もいい。大正期に流行したようなレトロな結髪で、臙脂色の縞御召、赤い帯と白い襦袢に紅葉があしらわれている。作品解説には「下町商家の娘の秋」とあった。

 河合玉堂がいい。この季節なら「錦秋」「彩雨」「渓山錦秋」「高原深秋」などがある。「錦秋」はこれね。
http://gifu-art.info/details.php?id=3190
 この4作の中ではワシャは「渓山錦秋」が好きだ。ネットで探したけれど見つからなかった。手元には1998年に愛知県美術館で開催された「河合玉堂展」の図録があって、その中に「渓山錦秋」は納まっている。山中の紅葉を描いていて、紅葉や黄葉の向こうで炭焼きの白い煙が立ち上る。秋の深まりを感じるいい一枚だ。

 今朝の「NHK俳句」である。選者は夏井いつき先生。兼題は「鹿」である。一席は「夕暮れを縦に引掻く鹿のこゑ」。二席は「乳神や石の窪みに鹿の声」。三席は「視線が合ってないような鹿迫る」。
 ワシャ的には選から落ちてしまったが「銃床は鹿の太腿めいており」がよかった。「銃床」は銃を構えたときにもっとも手前にくる銃身を装着した木製の部分である。この部分が「鹿の太腿」のようだと作者は言っている。確かに鹿のもののようであり、馬の琵琶又のようでもある。ここで「鹿」ということで、その銃床の向こうに狩られる鹿が見えてくる。おそらく夏井先生は、狩猟というものの残酷さを嫌われたか、あるいはこの句での「鹿」が無季になる可能性もあるので避けたのかなぁ。
 ワシャは秋の山野の鹿と狩人の動的な緊張のようなものを感じてこの句を選んだ。