おけら

 友達が教えてくれた。
《あなたが機嫌がいいと、世界は機嫌がいい》
http://careersupli.jp/career/kigen/
 なかなか深い。そうだよねぇ、機嫌よく生きないとせっかくの人生がもったいない。そんなことを田中泰延さんは教えてくれる。

 夏井いつき『絶滅寸前季語辞典』(ちくま文庫)の中に「蒼朮を焼く」という季語が登場する。「蒼朮」は「そうじゅつ」と読む。漢方生薬のひとつで健胃、鎮痛、利尿に効く、キク科の植物。「蒼朮を焼く」ということで仲夏(今頃)の季語になっている。
 で、「蒼朮を焼く」ってなに?という話である。もちろんワシャも知らない。夏井さんに依れば「梅雨の時期、黴を防ぎ湿気を払うために室内で炊いた」ものだそうな。
「かびの香に蒼朮を焚きただ籠る」
 高浜虚子である。
 夏井さんも、季語としては知ってはいても、実体験としては知らなかった。同年代のワシャもそんなことをしていたという記憶がないので、おそらくは昭和30年代に消えてしまった文化ではないだろうか。
 なんて偉そうに文化を語り出しているが、そんなことを言いたかったのではない。この「蒼朮」の和名が気にいったからメモしておこうと思ったのだ。「蒼朮」、別名を「おけら」と言う。「おけら」はこのところワシャ的にブームになっているので(笑)。

 おおお、歳時記を見ていたら「おけら」も6月(夏)の季語だったのじゃ。
「虫螻蛄(けら)と侮られつつ生を享く」
 これも虚子。
 おけらは詰まらぬものの代表選手のようなもので、虚子の師匠の漱石も『吾輩は猫である』の中で「在天の神ジュピター」と対置して「蚯蚓とおけら」を挙げている。名曲「手のひらに太陽を」の中でも「ミミズだってオケラだって〜♪」って出てくる。ジュピターの代わりが「ぼくら」になっているだけでやっぱり詰まらないものの二番目として登場する。

 冒頭の田中さんである。昨年、長年勤めた会社を辞めて無収入・無職になった。ある意味で「おけら」になったということである。不機嫌なジュピターよりも機嫌のいい「おけら」を選んだということで、そのことには素直に拍手を送りたい。青年失業家、がんばれ。